第17話 クラス分け(第三者視点)

入学試験が終わり、これからが学園の関係者の本番でもある。学園長を含め、学園の上層部と試験官を務めた教師が集まってクラス分けなどの会議をするのである。


学園長が教師の一人に準備してあった書類を配るように指示する。書類はすでにクラス分けされた名簿であった。


学院長は全員に書類が渡ったのを確認すると話を始める。


「配った書類は爵位を元に私がクラス分けをした名簿になる。今日の試験結果を踏まえて、これを元に調整を始めようか」


名簿を見た教師の中には苦笑を浮かべる教師もいた。


名簿には名前だけでなく爵位なども書かれていて爵位を元にしているのは間違いない。しかし、明らかに爵位とは関係なく不自然なクラスに入っている生徒もあった。


学園長は元老院派閥の子爵家の出である。元老院派閥の貴族や賄賂を受け取ってクラス分けをしていることは教師の誰もが知っていることであった。


ヴィンチザード王国は大きく分けて三つの派閥に貴族が分かれている。

一つは国王を支援する貴族が集まった国王派閥。もう一つは国王の権力を監視するような元老院を中心とする元老院派閥。そしてどちらにも入らないか、都合のよい時だけどちらかに加担する中立派閥。


国王は国の最高権力者であるが、過去に国王が権力を自分の欲望のために使い、国内が荒れたときがあった。その国王は反乱を起こした貴族により粛清された。ただ国の崩壊まで望まなかった貴族達は、国王の横暴を抑えるために元老院を作ったのである。


現状では国王と元老院が微妙なバランスで国が成り立っていた。しかし、最近では元老院のほうが権力や利権を好き放題に使い、汚職が広がっている。


苦笑いしていたのは国王派閥や中立派閥の教師たちである。


元老院派閥の学園長も騒動にならないようにしていたようだが、年々元老院派閥の権力が強くなり、学園の教師も徐々に元老院派閥の貴族から送り込まれる数も増えていた。それに合わせるようにクラス分けの手心も露骨になり始めていた。


「それでは試験結果を踏まえて意見はあるかな?」


学園の入学試験は表向きクラス分けのためである。

基本は貴族階級や利権でクラスは決められる。Sクラスは王族や侯爵までの上級貴族、A、Bクラスが伯爵から子爵までの中級貴族、C、D、E、Fクラスは男爵以下の下級貴族、Gクラスは貴族ではないが金持ちや平民でも突出した才能を持つ人材を貴族が推薦した生徒のクラスになる。

これは基本的な分け方であり、派閥の力学や入学試験の結果で調整されるのだ。


すでに貴族階級と派閥の力学によるクラス分けは、学園長の作った名簿に反映されており、入学試験結果による調整が会議の目的でもある。


最初に発言したのは学園長の隣にいた副学園長であった。


「それといつものように学科試験の合格者はクラスのランクアップを、成績の悪かった生徒は決められたランクダウンさせて下さい!」


入学試験で学科試験(必須科目)を全部合格する生徒は一つだけ上のクラスに上げられる。貴族ならそれぐらいはできて当たり前ともいえるのだが、実際には2割ほどの生徒しか全部合格することはできていなかった。


そして成績の悪い生徒はクラスを下げられるのである。これは学園の決まりだから学園長でも無視することはできない。


アーリンは准男爵家で爵位は低いが、領地持ちの貴族だから本来ならDクラスのはずである。しかし、寄り親のゴドウィン侯爵は国王派閥であり、他にも元老院派閥に睨まれることがあるので、名簿ではFランクになっていた。

余裕で学科試験には合格したので、これでEクラスにアップすることになった。


文官コースは数も多く、コネが重要視される。だから最初はクラスランクがそのまま各コースのクラスに割り当てられ、会議での調整はされない。


各コースの評価は定期的に実施され、評価により各コースのランクアップやダウンがされる。


次に発言をしたのは魔術の実技試験を担当した試験官の教師である。


「すでに魔術スキルを取得している生徒は、いつものように魔術Aコースでよろしいでしょうか?」


学園にはクラスだけでなく、適正に合わせた魔術コースや騎士コース、文官コースがあり、それぞれの選択科目で受けられる授業の質も調整されるのである。他にも貴族嫡男が学ぶ施政者コースもあるが選択する生徒は少ない。

最大のコースは礼儀作法コースで、女子の大半がこのコースを選択する。なぜなら礼儀作法コースは結婚相手を探すコースでもあり、定期的に各コースの人材との交流会が開かれるのである。


同時に複数のコースを選択できたり、各コースの一部の選択科目も選べたりする。またコースは選ばなくても問題なく卒業はできるし、必須科目が合格していれば学園に通わなくとも卒業はできるのである。

その辺は貴族により考え方も違うので、学園も柔軟に対応している。学園は社交と能力のある人材を登用するために作られた。だから常識的な知識だけあれば、それほど生徒の行動は制限していないのだ。


魔術コースを選択する生徒は比較的に少ない。魔術コースは魔術Sだと王宮魔術師から専属の指導者が派遣されてくる。魔術Aは魔術スキルを使える生徒用の選択授業で、魔術Bが魔術スキルの取得を目指す生徒のための選択授業になる。


「ああ、それで構わない。確かシャルロッテ王女殿下が魔術コースを選択していたはずだ。殿下は魔術Sにしてくれ」


王女であるシャルロッテはすでに王宮魔術師の家庭教師がついている。学園長としてもそこに口出しをするつもりはなかった。


魔術Aに入るとクラスはランクアップして、魔術Sならさらにランクアップする。


辺境の准男爵家のアーリンなど誰も気にしていなかったが、これで本来振り分けられるDランクまでランクアップしていた。


そして次は武術の実技試験の結果から、騎士コースの調整が始まるのだが、実はこの調整に一番時間が掛かる。どの貴族も武術で実力を証明したいからである。


まずは人数の少ない女子から話合いが始まるのであった。



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