第45話

「雪花お兄さん、おめでとう」

「おめでとう、雪花君」

「ありがとうございます」


 卒業証書を受け取った僕をみて、二人とも涙ぐんでいる。


「雪花おめでとう」

「おめでとう」


 後から、母さんと父さんがきてこちらはもう泣き止んだのか目の下が少し赤い。


「美穂さん、雪花の卒業式に来てくれてありがとうね。もちろん、絵里ちゃんも」

「いえ、こちらこそ行かせていただいて感謝しています。雪花君の晴れ舞台を私も凄く見たかったので」

「私も、見られて良かったです」

 

 女の人、三人が集まって話し合っている間。


「なぁ、雪花」

「なに?父さん」

「お前、大きくなったな」

「そうかな?そうだといいな」

「そうだとも。流石だな。今度、俺に雪花の料理食べさせてくれよ」

「機会があったらな」

「それに、あんな美人二人を娶るなんてな」

「そ、それは..........」

「がんばれよ」


 そう言った父さんの顔は晴れやかだった。


「言われなくても頑張るし」

「そっか」


父さんは笑って僕の頭を撫でた。


 気恥ずかしかったけれど、振り払う気にはなれなかった。


「じゃあ、みんなで雪花の卒業パティーでもしよっか」

「いいけれど、その前に…美穂さん、絵里ちゃんと行きたい場所があるから」

「分かったわ、行くわよあなた」

「はいはい」


 父さんと母さんには悪いけれど、先にお店に行ってもらう。


「じゃあ、いこっか」

「はい」


 車に乗ること一時間程度。


 僕らが住んでいる都市から少し離れた自然があるところにお墓が立っている。


「初めまして、誠也さん。僕の名前は雪代雪花です」


 お墓の前で手を合わせる。


 僕はこの人、絵里ちゃんのお父さん、そして美穂さんの旦那さんだった人に挨拶をする。


 これからのこと、これまでのこと、全てこの人には、話さなければならないと思ったから。

 

「久しぶり、貴方」

「久しぶり、お父さん」


二人も僕も同じように手を合わせた。


 それからは、僕たちの馴れ初め。どのように出会って、これまでどうしてきたのか、全て洗いざらい話した。


「それでね、雪花お兄さんが…」

「ごめんなさい、貴方。私は…」


 笑ったり、泣いたり、しんみりしたり、本当に誠也さんがいるみたいで、四人で話しているみたいだった。


「じゃあ、また来るから。またね。お父さん」「また、来るわ」

「また来ます」


一度、頭を下げてからその場をさる。


『ありがとう、二人をよろしくお願いします』


慌てて振り返ったが、そこには誰もいなかった。


「雪花お兄さん行くよー」

「分かってる」


都合のいい空耳かもしれない。けれど僕はその言葉を忘れない。












 

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