第19話 優先順位逆転。
すべてを話し終わった優希は一度深呼吸をして切り出した。
「つ、都合のいいことだってことも理解してる。だけど、私、もう二度とこんなことしない。だって、大切なものに気づけたから」
そういって、こいつ..............優希はじっと僕の目を見つめてくる。
「雪花、私ともう一度だけ、やり直しませんか?私にもう一度だけチャンスをくれませんか?」
真剣な表情、もう二度とあんなことはしない、そんな瞳をしているような気がした。
だけれど
「..............ごめん。正直、一度あんな扱いを受けたら信じることができない」
それに、今は優希より断然大事なものができた。
絵里ちゃんと、美穂さんの存在だ。
その二人を放り出して、優希を優先なんてできない。
僕は、あの二人だけを幸せになれるように、安全に暮らせるように、楽しく暮らせるようにお手伝いしていきたい。
「それに、お前より大切な人がいるんだ。僕は、大切な人を放り出して他の人に現を抜かすようなことはできないから」
..................少しは仕返しができたな。
「そ、そんなにその人たちが大事なの?わ、私たち仮にも約二年間くらい付き合ってたんだよ?」
「うん。時間じゃ図れないものもたくさんあると思う。それに、その半分くらいは玲君とやらにほぼ使っていたしね」
「そ、それは..................。ねぇ、本当にお願い。私ともう一度付き合って!」
そう言って僕を抱きしめてくる。
付き合っていたときは嬉しかっただろう抱擁さえ、僕の心は一切動かなかった。虚無でなんの感情もわかない。
僕は、優希を引き離す。
「ごめん、どれだけ言われても僕の心は動かない。僕はあの人たちを幸せにしたい。じゃあね」
「ま、待って!」
僕は、立って部屋をあとにする。
「せ、雪花!」
制止を振り切って、優希の部屋を飛び出した。
..................無性に、絵里ちゃんと美穂さんに会いたかった。
絵里ちゃんの無邪気な可愛い笑顔が見たい。
大人な美穂さんが僕を頼って甘えて欲しい。
急いで、自分の家に戻った。
玄関の扉を開けると、その音に気が付いたのか絵里ちゃんが僕の部屋から出てきて、そのまま突進するように僕を抱きしめた。
「雪花お兄さん、おかえりなさい」
「ただいま、絵里ちゃん」
「..........ちょ、雪花お兄さん。少しだけ苦しいよ?嬉しいけれど」
「ご、ごめんね。少し強かったかな」
「..........このままがいい。いや、もっと強く抱きしめて」
要望通りにもっと強く抱きしめると「んっ..........」と発して「むふふ」と蕩けたような声で、笑った。
僕は、この笑顔を絶やしたくない。
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