第14話  絵里ちゃん.............?

「えーっとね、まずどこから話そうかな」


 絵里ちゃんはずっと目を開いたままじっと僕の顔を見ている。


 ほんの、ちょっとだけ怖い。


 僕は、事の発端を話し始めた。


 元カノにぞんざいな扱いを受けていたこと。


 僕がそれに耐えられなくなったこと。

 

 そして別れて、飛び出したこと。


「それで、走り切ったところで丁度、怪しい男を見つけて事件が起こって絵里ちゃん達と出会ったんだよね」

「..............そうなんだ」

「だから、元カノと別れて正解だったというか」

「そうなの?」

「うん、絵里ちゃん達と出会えたからね」

「むふふ。じゃあ、さんに感謝しないとね」


 絵里ちゃんは意地の悪そうな顔をして笑う。


「雪花お兄さんは、もう元カノさんにはもうなんの未練もないよね?」

「う、うん」

「そっか、良かった」


 そう言った絵里ちゃんの顔は、心底安心した顔をしていた。


「じゃあ、逆に今好きな人はいるの?」


 と今度は期待した顔をして僕のほうを上目遣いで見てくる。


 これって..............


「僕は、絵里ちゃんのこと好きだよ」

「え!?わ、私も雪花お兄さんの事大好き」

「美穂さんの事も好きだな」

「むぅー。雪花お兄さんはおバカだね」

「なんで!?」


 あれー?なんか間違っちゃったのかな。


「まぁ、でもお母さんならいっか」

「何が?」

「秘密」


 むふふと笑って僕に身を寄せてくる。


「じゃあさ、雪花お兄さん」

「ん?」

「その元カノの事忘れるくらい私との記憶で塗りかえてあげる」

「お願いね」

「むぅ、信じてくれていないでしょ」


 だってもうほとんど忘れかけていたしね。


「雪花お兄さん」

「よしよし」


 僕に抱き着きすりすりしてくる絵里ちゃん。

 

「私、あんまり外好きじゃないけれどね。雪花お兄さんとならどこへでもいけるような気がするの」

「じゃあ、次の土曜日美穂さんと三人でお出かけしよっか」

「えー、まぁいっか。今は。でも、行くところはその元カノさんといったところは無しで」

 

 そう言った絵里ちゃんの瞳は真っ黒で、いつの間にか飲み込まれてしまいそうな感じがした。



「わ、分かったから、絵里ちゃん戻ってきて」

「お願いだよ?」

「うん。約束」


 絵里ちゃんはやっといつも通りに戻ってくれた。もう絵里ちゃんにできるだけあいつのことは出さないようにしよう。切実にそう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る