第12話  どうやら、面白いらしい。

「雪花君、じゃあこの子のことよろしくね」

「もう、帰っちゃうんですか?」

「......そんなこと言わないで。帰りたくなくなってしまうわ。仕事なのに」

「あー、仕事ですか。頑張ってください。応援しています」

「......絵里の事は、撫でるのに私の事は撫でないのね」

「えっ......」


 そういって、ちらっと僕のほうを見ている。


 絵里ちゃんがものすごく可愛くて美人ならばその母親もものすごく美人であるのは自明であり、そんな美人さんから上目遣いで見つめられる。


「やっぱり駄目よね」

「いや、ダメじゃないですよ」


 僕は勇気をだし、そっと美穂さんの頭に手を乗せ優しく撫でる。


 美穂さんは、気持ちよさそうに目を細めもっとしてほしいのか頭を手にこすりつけてくる。


「.........ねぇ、雪花君。そのまま、私ことを抱きしめてくれない?」

「え、あ」

「そうすれば、元気になって仕事も一層頑張れる気がするから」


 ......................仕事が頑張れるなら。


 僕がそう思い抱きしめようとすると、そこの間に絵里ちゃんが滑り込み僕の事を抱きしめてくる。


「だめ、雪花お兄さんは私のだもん」

「......ふふっ。じゃあ三人で抱き合いっこしよっか」


 そう言って絵里ちゃんの事を美保さんは抱きしめ、絵里ちゃんは挟まれる状態になった。


「むふふ」

「ふふっ」

「あはは」


 何が、嬉しいのかは分からないが三人で笑いあった。


 この和やかな時間が一生続けばいいと僕は思ったが時間はそれを許してはくれなかった。


「......名残惜しいけれどもう行かなきゃ。じゃあ、行ってくるね」

「うん、行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃい、美穂さん」

「うん、行ってきます」


 ドアが閉まり、絵里ちゃんと二人だけになる。


「絵里ちゃん、今日から一人暮らしだけれど不安はない?」

「ないよ、だって隣に雪花お兄さんがいるんだもん」

「そっか。嬉しいな」

「むふふー。それにしても、雪花お兄さんの家、綺麗だし雰囲気いいね。私この部屋好き」

「そう?ありがと」

「毎日、来ていい?」

「毎日かぁ」

「だめ?」


 僕も受験生だし、静かに勉強したいときもあるんだよなぁ。


 でも、絵里ちゃんとも一緒にいたいし。


「私、雪花お兄さんのお勉強の邪魔しないから」

「......なら、いいかな」

「やった!じゃあ、早速お勉強しちゃおう」


 そう言って、僕の部屋まで行く。


 僕が、準備を終え胡坐をかいて座るとその上に乗ってくる。


「......絵里ちゃん?」

「なぁに?」

「......まぁ、いいか」

「私を膝の上に乗せることを習慣化すれば、気にならなくなるでしょ?」

「そうかなぁ」


 そう思いつつも勉強を始める。


 最初は身動きが取りずらかったり、若干見えなかったりしたが、その度に僕の心を読んだかのように絵里ちゃんは態勢を変える。

 

 数時間経つと、あまり気にならなくなっていた。


 寧ろ、それが自然であるかのような。


「ふぅ、つかれた」

「お疲れ様、雪花お兄さん」

「絵里ちゃんは、何にもしていないのにつまらなくないの?」

「うん、だって雪花お兄さんの膝の上だもん」

「......?」


 意味はよく分からないけれど、どうやら僕の膝の上は面白いらしい。


 


 

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