第4話 母親だって人間である
「それで、話っていうのはね」
「はい」
「絵里の事なんだけれど」
大体そんな気がしていた。
「あったばかりのあなたに頼むのはおかしいと思うけれど、雪花君、絵里の面倒を見て欲しいの」
「.......へ?」
思ってたのと少しだけ違った。
てっきり、絵里さんとくっつきすぎとか言われるのかと。
「あの子ね。.......引きこもりなの」
「.......」
「中学校に行っていた時に、ひどいいじめにあってそれから閉じこもっちゃって。続いて絵里が好きだったお父さんも死んでしまって、あの子の心はもうズタズタで、何も食べず飲まずで、一時期本当に死んじゃうんじゃないかっていうところまでいったの」
「.......」
「そこから、どうにか繋いで継ぎ接ぎしてやっと私とも喋ってくれるようになって、一年ぐらいが経ってようやくある程度元通りになってきたところにあの事件が起こったの」
「.......」
「正直、雪花君が少しでも遅かったら本当にあの子は壊れてしまったでしょうね」
.......今、それを聞いて背中に冷や汗がつぅーっと垂れる。
あの時、勇気を出していなかったら、絵里ちゃんは.......目を覆いたくなるようなことになっていただなんて。
「だから、私はこれ以上にないくらいあなたに恩を感じているの。本当にありがとう。感謝してもしきれないの」
「本当に、よかった」
「ふふっ、本当にあなたは優しいね」
「そんなことは......」
と僕が否定しようとすると、美穂さんはかぶりを振った。
「そんなことはあるわ。.......そんなあなたの優しさにつけ込むのは良くないことだって、厚かましいことだって重々承知だけれど、あなたにお願いしたいの」
「はい」
僕は姿勢を正し、正面から美穂さんを見つめる。
「あなたにしか頼むことができないの。きょうのあの子のあなたへの心の開き方。今まで見たことないくらいだわ。あの子があんなに表情豊かになったのは、あなたに会ってからなの。あの事件があってからずっと、あなたに会いたいって聞かなくてね」
「そうなんですか」
「だから、お願いします。絵里のことを救ってください」
「.......分かりました」
僕がそういうと、目に涙を滲ませる。
絵里ちゃんのことはしっかり僕が面倒を見よう。そう決意したと同時に
「失礼かもしれないし、余計かもしれませんけれど」
「え?」
「辛かったのは絵里さんだけじゃないと思うんです。夫さんが亡くなって、絵里ちゃんは大変なことになってしまって。.......だから、僕、美穂さんのこともできる限り助けたいです!」
「......................」
「といっても、子供の僕にできることなんてたかが知れているかもしれませんけれど、精一杯手助けしますから。つらい時は、僕に愚痴ってもいいし、頼ってください」
「.......うぅ、ひっ、ぅあぁぁぁ」
堪えていた数年分の涙が決壊したように、目から零れ落ちていく。
そんな美穂さんをそっと抱きしめた。
僕は、この二人を守っていきたい。心からそう思った。
いつの間にか、僕の頭の中は元カノの存在すら薄れて消えようとしていた。
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