3.
講堂での「野球部優勝おめでとうパーティ」がお開きとなり、そろそろ日が西に沈みかけた頃合いに、制服姿の少年と少女は、スポーツバッグを肩にかけ仲良く家路についていた。
今日の試合の自慢とも反省ともつかない事柄を、熱心にしゃべり続ける少年・星崎 空と、相槌をうちながらニコニコとその話を聴いてあげる少女・桜合 舞。
本人達は否定するが、並んで歩くふたりの姿は、誰が見ても幼馴染以上恋人未満の微笑ましいカップルと言えるだろう。
だが、このふたりには秘密があった。お互い以外、誰にも言えない、言っても信じてもらえないだろう秘密が……。
「──それにしても、まさか、キミがこんなに野球部で活躍するようになるなんて……」
話が途切れた時、ポツリと少女がそんな言葉を漏らす。
「それを言うなら、オマエだって、チアリーディング部や女子の輪に随分なじんでるじゃないか──なぁ、“桜合 舞”ちゃん」
わざと名前の部分を強調するように呼ぶ“少年”の言葉に、“少女”はツイと視線を逸らした。
「ねぇ……私たち──ううん、僕たち、ずっとこのままなのかなぁ」
「さぁね。でも、こんな
「え、原因は、あの時の“お願い”じゃあ……?」
「はっきり断定はできないだろ。それに──仮にそうだったとしても、じゃあ、どうすれば、元に戻れると思う?」
「それは──そう、ですね」
少年と少女の秘密。
それは、周囲から“星崎空”として扱われている方が本来は桜合舞で、逆に桜合家のひとり娘として暮らしている子が元は星崎家の長男だったという事。
もし、ほかの人々に話せば一笑に付されそうなヨタ話だが、空と舞のふたりにとっては真実だった。
とは言っても、尾道を舞台にしたどこぞの映画みたく、ふたりの体と心が入れ替わったというわけではない。
入れ替わったのは“名前”、あるいは“立場”そのもの。
より正確に言うなら、ある日を境に周囲の人々から、空は“桜合舞”、舞は“星崎空”とみなされるようになったのだ。
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