第五章 帰国
第35話 再会
ゴーシュラン王国の入国審査は、あっけないほどスムーズだった。元々使者が来ることが周知されていたのだろう。クラウスが国使の証でもある通行証を見せると、審査らしい審査もなく通された。
「こんなにスムーズに入国できるなんて思いませんでした。色々聞かれるかもしれないとドキドキしていたのですが、杞憂でした」
「仮にも帝国からの使者だからね。丁重に扱われるんだよ。僕も初めて父とともに来たときは驚いた」
「あら、クラウスはヘルマンさんとともに王国に来たことがあるのですね。では、どこかで会っていたかもしれませんね」
「そうかもしれない。いずれにしても僕らが出会うのは運命だったんだよ」
上機嫌に笑うクラウスを見ていると、本当にそんな気がしてくる。スカイテルーシ帝国の国使とゴーシュラン王国の聖女のままなら、こんな風に親しくすることはなかっただろう。その点については、自分の運命を好ましく感じた。
私たちは入国してすぐに王宮に案内された。客間に案内され、しばらく待つように言われた。おそらく謁見までには時間があるのだろう。
(久しぶりに来たけれど、分身を飛ばしていたせいで久しぶりな感じがしないわ)
とりあえず、分身をシャーロット様の部屋に飛ばし、日記帳を持ち出すことにした。分身の操作も慣れたので、あまり意識をやらずに動かせるようになっていた。
「クラウス、王族との謁見まで時間がありそうですし、しばらくゆっくりしましょう。……クラウスはその手紙の内容を知っているのですよね」
「ん? あぁ、父さんから預かった手紙かい? 少し聞いただけだよ。君が僕たちにとって必要不可欠な存在だってことが書かれているんだよ」
「帝国からの手紙にそんなことが……? 私、帝国にまでご迷惑をおかけしているのでは……?」
「いやいや! 大丈夫だって。父さんも言ってただろう? そんなに悪いことにはならないって。ただ、色々ひと段落着いたら、リディアに協力してほしいことがあるんだ」
「協力? 私に出来ることなら何でもします。ですが」
一体何を? と聞きたかったが、ドアのノックにかき消されてしまった。
「お待たせいたしました。謁見の間にお越しください。国王がお待ちです」
(遂に国王と会えるのね。まずは大人しくして、それから私の正体を明かして……)
頭の中でシミュレーションをしていると、クラウスが手を握ってくれた。どうやら不安が顔に出ていたようだ。
「大丈夫だよ、リディア。君は思いをぶつければ良いんだから。さあ行こう」
「そうでしたね、ありがとうございます」
謁見の間にはシャーロット様やルーファス様はおらず、国王だけだった。
「ようこそゴーシュラン王国へ。クラウス殿は久しぶりだな。随分とお父上に似てきたようだ」
「ご無沙汰しております。父からもよろしくとのことです」
「そんなにかしこまらずとも良い。そちらの女性は?」
「ご紹介する前に、こちらをお読みください」
私が自己紹介しようとするのを制して、クラウスは国王に例の手紙を手渡した。
国王が手紙に目を通している間、クラウスは私に耳打ちをしてきた。
「リディア、今のうちに容姿を元に戻してごらん? 自分で出来るだろう?」
私は言われるがままヘルマンさんがかけてくれた変装を解いた。
国王が顔を上げた時、私は元の姿に戻っていた。
「そうか、リディア・クローバー……無事であったか」
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