第28話 日記帳

 〇月×日

 今日、あたらしいお姉様ができた。わたしより2つ上のリディア様という。

 お兄様よりも優しそうで、早く仲よくなりたい。

 聖女って言ってた。一緒にあそんでくれるかしら。


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 △月〇日

 今日、リディア様とお勉強をした。つまらない数学もリディア様と一緒なら嫌じゃなかった。

 勉強に飽きた私をこっそり連れ出してくれて、少しだけ遊んでくれた。

 リディア様、大好き!


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 □月△日

 お兄様は今日もリディア様とお出かけだ。最近、私のこと放置し過ぎじゃないかしら?

 前は私も連れて行ってくれたのに……


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 ×月〇日

 お兄様がリディア様にプロポーズした。お兄様の好意はだだ洩れだったから、やっとか……と思ってしまった。

 リディア様も満更でもないようで、嬉しそうだった。これでリディア様が本当にお姉様になるのね。

 嬉しいけど、なんだかモヤモヤする……でも、これで良かったのよね。お兄様、よくやったわ!


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 〇月△日

 気持ち悪い

 怖い


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 〇月□日

 今日の日記は長くなる。

 頭を整理したい。


 昨日、借りたい本が何冊かあったからお兄様の部屋を訪ねた。

 お兄様は少し焦ったような表情をしていたけれど、私を部屋に入れてくれた。

 いつものように本棚を物色していたのだが、どうにもお兄様がソワソワしている。

 何か隠しているのかも、という好奇心が湧き上がってしまったのが悪かったのかもしれない。

 その時は本を借りてすぐに部屋を出た。


 そして今日、お兄様が出かけた隙を狙って、こっそりお兄様の部屋に忍び込んだのだ。

 お兄様は昔からスペアの鍵を書庫に隠しているから、入るのは簡単だった。

 ただの好奇心だったのに……


 本棚のあたりが怪しい気がしたので、なんとなく眺めていたら、背表紙のない本があった。

 それを取り出すと、奥にレバーがあったのだ。それを引っ張ると、本棚が動き出し、後ろに扉が現れた。

 隠し部屋があったのだ。

 

 重々しい扉を開くと、そこには恐ろしい光景が広がっていた。

 この日記に書くのも気分が悪い。ただ、リディア様の写真が無数に貼り付けられているのは目に焼き付いてしまった。

 お兄様はあの部屋で何をしているの? リディア様をどうするつもりなの?


――――――――――― 


 〇月〇日

 今日、お兄様にリディア様のことを聞いてみた。

 「いつからリディア様のこと好きだったの?」 と聞いたら、「初めて会った時から……」だって。

 でも初めてってリディア様が王宮に来た日じゃないみたい。

 一体いつからリディア様のことを知っていたの? リディア様が王宮に来たのは偶然?


 最近お兄様の顔が怖くて直視できない。昔はこんな風じゃなかった。


 リディア様はお兄様が変だとは気づいていないのかしら? どうして? お兄様はこんなにも異常なのに!

 お兄様はリディア様と会ってからおかしくなったの?

 リディア様がいなければ、お兄様はおかしくならなかったかもしれない……


――――――――――― 


 △月△日

 最近、王宮の誰に会っても落ち着かない。誰かに相談したいのに、誰にも言えない。

 もう嫌!

 

 だけど、今日は素敵な出会いがあった。こっそり行った酒場で会ったあの人は、私の話を聞いてくれた。

 あの人だけは私のことを分かってくれる。呪術師だって言っていたけれど、そんなことは関係ない。

 誰にも相談できなかったことを話せて、心が軽くなった。


――――――――――― 


 □月□日

 久しぶりの日記だ。

 あれから色々考えた。私にはこの方法しか思いつかなかった。

 リディア様がいるから、お兄様はリディア様に異常な執着をするのよ!

 お兄様もお兄様よ! どうしてリディア様なんかに夢中になっているの?


 私が全部、壊してあげる。

 

 今日、呪術師と会ってきた。呪いは最後の手段だけれど、念には念を入れた方がいい。

 お兄様もリディア様に毒を盛られたと知ったら目が醒めるでしょう。

 リディア様も追放してしまえば、もう二度とお兄様に捕まらなくて済むわ。残りの人生を楽しんでちょうだい。


 私って優しいのね。皆を助けてあげるんだから。


――――――――――― 


 ×月×日


 何が正しかったのか、もう分からない。

 私はどうすべきだったの?

 私は……

 私は……ただ、皆と仲良く暮らしたかっただけなのに。

 

 もう全て手遅れね


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