第4話 死刑から追放へ

「ルーファス様! どうしてここへ?出る、とはどういうことでしょう?」


 私が驚いていると、ルーファス様は優しく笑いながら私の頭に手を置いた。


「助けに来たんだ。いいかい? 君は表向きは死刑となる。だが、実際は国外追放処分だ。これは父から秘密裏に許可を得た」


「国王が?でもなぜ……?」


「僕とシャーロットで父に願い出たんだ。僕たちは君が犯人ではないと知っている。だが真犯人が分からない以上、君を無罪には出来ない。それでこんな形に……僕が不甲斐ないばかりに、リディアを辛い目に遭わせてしまった。本当にすまない。こんなことしか出来ない僕を許してくれ!」


「謝らないでください。助けてくれたじゃないですか。もうお身体は大丈夫ですか?」


「あぁ、もう回復したよ。心配してくれてありがとう。……さぁ、早くここから出よう」


 そっと手を引いてくれるルーファス様に連れられるまま、私は牢屋から抜け出した。日付を聞くと、死刑執行予定日の前日だったようだ。本当にギリギリだったけれど、私は助かったのだ。


 こうしてルーファス様とシャーロット様のおかげで私は死刑を免れた。死刑に比べたら国外追放なんてありがたい限りだ。


 ただ、こうしてルーファス様やシャーロット様に会えなくなるのは、やはりひどく寂しい。家族同然に育ってきたのに、こんな風にお別れしなければならないなんて。


 (でも生きていれば、いつかまた会えるはず。死んだらそこで終わりだもの)





 ルーファス様に連れられて国境近くの森まで向かうと、そこにはシャーロット様が待っていた。旅に必要な物や資金を準備してくれたようだった。


「リディア様……間に合って良かった。この荷物を持って行ってください。それから、これも……私が作ったお守りです。どうかご無事で」


 シャーロット様は泣きそうになるのを堪えながら、私に小さなお守り袋を渡してくれた。少し不格好だったが、シャーロット様の気持ちが伝わってきて私まで泣きそうだった。


「ありがとうございます、大切にしますね。シャーロット様もどうかお元気で」


 そう言った途端、シャーロット様にぎゅっと抱きしめられた。

 そうして彼女は私の耳元である言葉を囁いた。


「え?」


 私の小さな声は、風にかき消されてしまったようだ。


「リディア、僕からもこれを。これを僕だと思って着けていてくれ」


 ルーファス様の声にそちらを向くと、彼はネックレスを私に差し出してきた。


「まあ、綺麗……ありがとうございます。お二人に最後まで気にかけてもらえて、私は幸せです」


「この森を抜ければ隣国に着く。比較的安全な森だから、魔獣なんかは出ないだろう。でも気をつけて。落ち着いたら連絡をくれ」


 ルーファス様にぎゅっと手を握られて、私の心臓はどきりと跳ねた。

 もうお別れなのだわ。


「……はい。それでは、さようなら」


 お二人に背を向けて歩き出す。振り返ると名残惜しくなってしまうから、振り返れなかった。

 

 長い時間歩いて森の奥深くまで来た時、私はようやく歩みを止めた。

 これからは一人で生きていかなくてはいかない。その事実がようやく現実のものとして感じられた。


 大丈夫。聖女の力も使えるし、きっとやっていけるわ。

 ……それにしても、シャーロット様の言葉はどういう意味かしら?


『絶対に戻って来てはいけません。お兄様のことも忘れてください。お願いします』

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