第3話 幸せだった日々
私が聖女になったのは、14歳の頃だった。もともとは、小さな田舎に暮らす伯爵家の娘だった。
ある日、王都で開催されたパーティーに出席した両親は、そのまま帰らぬ人となった。
帰り道での馬車の事故だったそうだ。
「いっぱいお土産買ってくるからな」
「良い子で待っててね」
それが両親の最後の言葉だった。
他に身寄りのなかった私は孤児院に引き取られる予定だったのだが、直前で聖女の力に目覚めて、そのまま王宮に引き取られたのだ。
「先代の聖女が亡くなって早十年、貴女様をお待ちしておりました」
そう言われて王宮に迎え入れられた時は、何が起こっているのか分からなかった。でも皆が優しく接してくれて、自分はここで生きていくのだと、すんなり受け入れられたように思う。
王族であるルーファス様やシャーロット様と共に育てられ、仲良くしていただいた。
3つ年上ルーファス様、2つ年下のシャーロット様と一緒にいると、本当の兄と妹が出来たようだった。
「リディア、勉強は進んでいるかい?分からなかったらいつでも聞きにおいで」
「まぁお兄様、私にはそんな風に優しくしたことないじゃない! リディア様、お兄様なんて放っておいて、私と遊びましょうよ!」
ルーファス様は真面目で優しく、シャーロット様は明るく可愛らしい方だった。
王家の方々や使用人の皆も、彼らと私を分け隔てなく育ててくれた。
「聖女は国の宝。責任は重いかもしれないが、王家が出来る限りサポートしよう」
国王からの言葉で頑張ろうと思えた。
聖女の仕事は難しかったけれど、やりがいのある仕事だった。
国に結界を張って魔物や邪気の侵入を防いだり、医者では治せない病気を癒やしたり、秘薬と呼ばれる万能薬を生成したり……誰かの役に立っている気がして嬉しかった。
両親が亡くなったことは辛かったけれど、優しい人たちに囲まれた幸せな日々だった。
3年間、そんな風に暮らしていたのだ。
私が17歳になった時には、ルーファス様との婚約話も浮上した。聖女は代々王族と結ばれるらしい。
私はルーファス様のことが好きだったし、ルーファス様も私を好きだと言ってくれていた。
「リディア、君が好きだ。聖女だからじゃなく、君だから……。僕と結婚しよう」
「私もルーファス様のことが好きです。結婚できるなんて夢みたい……!」
このまま幸せになれるのだと思っていた。
その幸せは突然終わりを告げた。
その日、私はいつものように薬を生成していた。
「リディア・クローバー、貴女に逮捕状が出ています。我々に着いてきてください」
「えっ……逮捕状? なにかの間違いでは?」
「第一王子ルーファス様の毒殺未遂の容疑がかけられています。抵抗せず、こちらの指示に従ってください」
どうやらルーファス様は、休憩中にコーヒーを飲んでお倒れになったらしい。
医者の話ではかなり珍しい毒で、私の生成した万能薬に成分が近いとの事。
万能薬は私しか作れないので、私が犯人なのだと結論づけられたのだ。
「私ではありません。もう一度よく調べてください!」
この言葉を何度も口にした。
最終的に、私の自室からルーファス様が飲んだのと同じ毒が出てきて、私は裁判にかけられたのだ。
ぼんやりと思い返していると、牢屋の鍵が開けられた。
「リディア、ここから出るんだ。待たせて本当にすまない……」
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