5-9




「ごめんね。本当はずっと隠すつもりだった。」


中庭のベンチに座る私の背後に立って、詩編先輩はそっと肩に手を置いた。


載せられた手は重たかった。

時折消えてしまいそうな詩編先輩は、ちゃんとそこに存在していた。

それがまた、重たかった。





返事は、出来なかった。


私は、詩編先輩に話してほしかったのだろうか。

それとも、隠し通してほしかったのだろうか。


わからない。


茫然としながらただ涙を流す私の隣に詩編先輩が座る。

そして、遠慮がちに私の手をそっと握った。


冷たくて冷たくて、悲しかった。




「人は死んだら、本当に死ぬのかな・・・。」


詩編先輩がポツリと呟いた。

またしても、私は何も言えなかった。



「俺は、人は死んだら、別の世界に旅立つのだと思う。」


先輩が、続けて語る。


前に、瑠奈ちゃんが人は死んだら星になるって言っていた時、詩編先輩は考え方は人それぞれだと言っていたっけ。


日常の、ほんのひとコマ。

出来ることならあの日に戻りたい。


でも、戻ることなど出来はしない。





「だから、死んだんじゃなくて、次の世界へ旅立っただけ。」




落とされた言葉に、私はそっと顔を上げて詩編先輩を見た。

涙のブルー。悲しみのブルー。


詩編先輩は私に言い聞かせるように口を開く。




「いいかい。俺は死ぬんじゃない。ひと足先に次の世界に旅立つんだ。」




たとえ、それが詩編先輩の作りだしたお伽話だとしても。

私は願わずにはいられないだろう。


いつか、次の世界で詩編先輩に巡り会えることを。


さよならが、永遠の別れじゃないことを。







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