5-8
思えば、たくさんヒントは落ちていたのだ。
二週間も風邪で休むことなんて、めったにない。
体育の授業をあれだけサボっていても、何も言われていないところだって。
それから、瑠奈ちゃんの質問に、詩編先輩がやってしまった一つのミス。
“元気だったぁ?”
“あー、うん。元気元気。”
あれは、嘘だったんだ。
“嘘つくとき、あー、とか、んー、とか言うのやめた方がいいですよ。”
そう指摘すると、詩編先輩の顔がこわばったのは、私にいくつもの嘘を重ねていたからだ。
そうだ、指摘して以来、詩編先輩のこの癖は急に消えた。
癖と言うのは普通は意識していないと出てしまう。
つまり、指摘されたからと言って、すぐには治せないのだ。
それなのに、不自然すぎるほど急に癖が消えたのは。
常に気を張って意識していたからか。
癖が出ないように練習したからか。
すべて、病気を隠すために行われた努力の賜物なのだ。
詩編先輩・・・。
『今日みたいな天気を、花曇りっていうんだ。』
詩編先輩に出会ってから、世界が広がった。
怖くて逃げてきた弱い自分を受け止めて、やっと立ち上がったというのに。
どうして・・・。
ずっと一緒にいたいだけなのに。
それ以上は、何も望まないのに。
どうして、たった一つの願いが叶わないのだろう。
詩編先輩と出会わなければ良かった。
そうしたら、こんなにも悲しい思いをしないで済んだのに。
悔しくて、悲しくて、苦しくて。
私はどうしたらいい?
この先、私はどうやって生きていけばいい?
涙が、止まらない。
でも、一番泣きたいのは、詩編先輩だ。
笑うことに慣れてしまった、詩編先輩だ。
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