5-5
それ以来、秋雨が随分と長く続いた。
昼休みに屋上に行かない日々。
どんよりとした黒い雨雲を恨めしそうに眺めて、私は晴れの日を待ち続ける。
もしも、神様がこの世にいたのなら、今すぐにでも雨を止ませてほしい。
でも、私は知っている。
神様は見守ってくれても、何かをしてくれる訳ではないことを。
シンデレラはお伽話の世界で、現実世界には魔法使いのおばあさんは現れない。
雨は、いつ止むのだろう。
私の気分はブルーだ。
昼休みの教室の喧騒が、いやに耳に響く。
あれ、一人だって、全然平気だったのに。
周りのことなんて、ちっとも気にならなかったのに。
教室の中で、私とクラスメイトの間には、越えられない深い深い溝があるように感じる。
この状況を一言で表すのなら、孤独、だ。
寂しい。
会いたい。
詩編先輩に、会いたい。
どうしようもなく、会いたい。
会って、どうでもいいメルヘンチックな話を、聞かせてほしい。
会って、そのブルーの瞳に私を映してほしい。
そうしたら、きっとこの心の中にぽっかりと空いてしまった空洞が埋まるから。
今すぐ、詩編先輩が目の前に現れてくれればいいのに。
今すぐ、この雨がやめばいいのに。
でも、神様がそれを叶えてくれることはない。
知ってるよ。
だから、自分で掴みに行かなければならないのだ。
ガタン、と。
私の座っていた椅子が音を立てた。
みんなお喋りに夢中で、それに反応するクラスメイトは一人もいない。
でも、いいの。
詩編先輩がいれば、それでいいの。
欲を言えば、その隣に瑠夏先輩もいて、三人で笑っていられれば、それでいいの。
だから、どうか。
私にその幸せを掴みとるチャンスを。
踏み出した一歩は、案外軽かった。
今日は雨だから、きっと屋上にはいないだろう。
先輩のクラスを覗きに行く?
果たして、詩編先輩はそこにいるのだろうか。
いない、ような気がする。
あとは、心当たりと言えば、屋上に続く階段くらい。
文化祭の日に、三人で過ごした階段の踊り場。
そして、かつての詩編先輩を知る女の子が現れた、場所。
”いつか、本当のあなたを知ったら、その子も離れて行くわ。”
ナナミ、と呼ばれたその人が、詩編先輩に残して行った言葉。
どうして、それを今思い出すのだろう・・・。
心の奥が、ざわざわと音を立てる。
軽かった足取りは、急に重たくなった。
一歩、一歩。
階段を上るのが苦しい。
それでも、足を動かし続けるのは、やっぱり。
詩編先輩にどうしようもなく会いたいからだ。
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