5-4
なんだか肌寒くなってきた今日この頃。
「魔法使いのおばあさんは、どうして泣いていたシンデレラを助けたのだろう。」
いつものごとく、お昼を食べていると、詩編先輩が急に変な話を始める。
なんで瑠夏先輩がいない日に限って、詩編先輩はこんなに面倒臭いんだ。
狙ってやってるのか。
狙ってやって、私が困っているのを見て、楽しんでいる?
そんな勘ぐりまでしてしまう。
「それは、シンデレラが優しい心の持ち主だったからじゃないですか。だってほら、継母や義姉たちにいじめられたって、シンデレラは決して悪く言ったり仕返しをしようとしたりしないじゃないですか。」
物語の世界だなんて、所詮憶測で終わりだ。
そこに、答えなどない。
「だって、普通は優しいですね。へぇ。で終わりじゃん。」
「そういうものですか?」
そんな細かいところまで考えたことはないよ。
「もし電車で、ある人が老人に席を譲ったとする。それを見て、君は心の中で優しい人だなって思っても、その人にお金は渡さないだろう?」
「まあ、確かに。でも、私が立ちますよってその人に席を譲るかもしれない。」
「その手があったかー。って、違う違う。話が変な方向にずれてる。」
「ずらしたのは詩編先輩ですよ。」
ジト目で見るも、先輩は考え込みすぎてて私のことなど見ていない。
「俺が思うに、魔法使いのおばあさんはその心優しいシンデレラのことが大好きだったんだと思う。」
なんだ、最初の質問の答えは出ているじゃないか。
ということは、そのことについて、単に私の見解を聞きたかっただけらしい。
分かりにくい人だ。
「そこは、心優しい人みんなを助けるおばあさんでも良いのでは。」
実際、シンデレラは、心優しくしていればいつか良いことが起こりますよって伝えたい物語だと私は考える。
「でも、物語の中では魔法使いのおばあさんが助けたのはシンデレラのみじゃないか。」
「そうですね。」
それを言われてしまうと、返答のしようがない。
物語のどこにも、魔法使いのおばあさんがシンデレラ以外の人を助けたという記述はないから。
「話戻すけど、心優しいシンデレラのことが大好きだったから、幸せになって欲しいと願って舞踏会に送り出した。
でも、その本心はどうだったんだろう。」
「本心?」
詩編先輩はどうしても魔法使いのおばあさんに感情移入したいらしい。
頭の中がそこら辺の女子よりメルヘンチックだなって思う。
「幸せになって欲しい気持ちと、自分の手を離れていくシンデレラに寂しい気持ちが、入り混じっていた。っていうのはどう?」
「さあ?人によって本の解釈は自由ですから。」
「・・・嫉妬はなかったのかな。」
「嫉妬・・・?」
メルヘンチックなくせに、いやに現実的だ。
「だって、大好きなシンデレラを王子様の元に送り出すんだよ。」
もし、魔法使いのおばあさんがシンデレラのことが大好きだったと仮定する。
「嫉妬があったかなんて知りませんが、大好きなシンデレラが幸せである。それだけで、良いじゃないですか。」
「そういうものなのか。」
ええ、あくまで物語の世界ですからね。
******
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます