4-11





「詩編先輩っ!!!」



屋上まで駆け上がって、ドアを押しあける。

それすらも、もどかしい。



「え・・・。」


突然やって来た私に詩編先輩は戸惑いの声を上げる。





揺れるブルーの瞳。

色素の薄い猫っ毛。

じゃらりとついたピアス。

色白の肌。

ブカブカの制服。



ああ、詩編先輩だ。


目の前に詩編先輩がいる。





「サヨナラなんて言わないでください。」


ここに来る前に大泣きして来た私はきっとひどい顔をしている。

そして、またボロボロと涙が出て来るものだから、おそらく顔面崩壊しているだろう。






「ちょ、そんなに大泣きするほど・・・。」



詩編先輩の言葉は最後まで告げられなかった。


なんて言おうとしたかはわからない。

先輩が戸惑ったような顔をして、口を固く閉ざしてしまったからだ。





「ごめんなさい。詩編先輩が話したくないことを無理やり聞くべきじゃなかった。だから、私のことを突き放したんですよね。」



色々考えたけど、結論はこれだった。

ごめんなさい。


もう知りたいなんて言わないから、だから一緒にいられないなんて言わないで。


泣きながらお願いすると、詩編先輩は私の顔を見て首を振った。





「違う、んだ。その、今は話したくないことがあるのも本当だけど、それで突き放したわけじゃない。」




まっすぐに向けられた目は澄んだブルー。


これから話してくれることは、きっと嘘偽りのない本音だ。



「じゃあ、何なんですか?」


恐る恐る問いかけると、先輩からは予想外の回答が返って来た。




「怖くなった。」


「え?」


「嬉しかったんだ。君が、俺のことを知りたいって言ってくれて。

だって、今まで一度もそんな素振り見せなかったから、本当に嬉しかった。

だけど、それと同時に怖くもなった。」







「なんで、ですか?」



「本当のことを知って、君が離れていくのが怖くなった。」




だから、離れていく前に突き放した。


同じだ。あの時の、私と。

瑠夏先輩と出会った時の私と。



だから、瑠夏先輩はあの時、詩編先輩の手を放さないでやってと、言ったのか。


詩編先輩は完璧なんかじゃない。きっと、私と同じで臆病な人だ。





「私は、どんな詩編先輩を知っても、はなれません。

たとえ先輩が実はマフィアのボスだって言っても、人を殺したことがあるって言っても、受け入れますから。

一生、はなれませんから!」



今ならわかる。

なんで私なんかと一緒にいてくれるのかと、聞いた答えの意味を。


私たちは似た者同士なのだ。


ありえないって笑う人がいるかもしれないけど。

私と詩編先輩は、会った瞬間に波長があったのだ。





「一生、か。大きく出たね。」


しかも、なんか物騒。

と呟いて、詩編先輩は楽しそうに笑う。






「本気ですよ。詩編先輩がおじいちゃんになって、大ボケしたって、一人でトイレにいけなくなったって、はなれませんからね。」


「ははははっ!」


「もー!大真面目なんですから笑わない!」






これから何があったって、きっと私は詩編先輩と共にいる。




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