4-10





空虚、だった。

私の心は、空虚だった。



詩編先輩に出会う前の生活に戻っただけ。





それだけ、なのに。


どうしてこんなに虚しいのだろう。

どうしてこんなに寂しいのだろう。


どうしてこんなに生きた心地がしないのだろう。




知りたいだなんて言わなきゃよかった。








詩編先輩と昼休みに会わなくなって一週間が経過した。


昼休み。

今日も晴れている。

先輩はいつものように屋上にいるのだろうか。


何を考えているのだろう。


もともと、詩編先輩の縄張りみたいな屋上に、他の人が足を踏み入れることがなくなって、清々しただろうか。

もしそうなら、私は泣いてしまうかもしれない。






そんな折、”今から会えない?”と瑠夏先輩からメッセージをもらった。


詩編先輩と喧嘩してから、すっかり瑠夏先輩とも疎遠になっちゃったなと思う。


あれ、そもそもこれは喧嘩なのか。

喧嘩だったら、仲直りが待っているはず。


でも、私と詩編先輩の間には、仲直りなんてない。


絶縁だ。そうだ、絶縁。


詩編先輩と絶縁して、瑠夏先輩から何を言われるのか、想像ができないけど。

気が重かった。






だから、”今忙しいです”、なんて返信しようとした矢先、”来なかったらお前のクラスに直接乗り込む”なんて送られてくる。


ひぇー。脅しだ。立派な犯罪!

でも、瑠夏先輩はそうでもしないと私が会ってくれないことを心得ている。



“詩編先輩はいませんよね?”


確認のため、瑠夏先輩にメッセージを送ると、”いないない”とすぐにレスされる。



“場所は?”


悔しいから、行きますなんて言ってやらない。

その代わりに、瑠夏先輩と会う場所をどこにするか聞いてみる。



“じゃあ、体育館裏で。”


なんか決闘するみたいな場所のチョイスだな。

なんて、少し笑ってしまう。



“了解です。”


返信すると、瑠夏先輩の元へ向かった。






「おー早かったなぁ。」


久々に顔を合わせた瑠夏先輩は、いつもとなんら変わりない様子だった。

これでも結構身構えて来たので拍子抜けしてしまう。




「それで、何の用ですか?」


「用件はわかってるだろ。」


「・・・・・・。」



つい刺々しい態度を取ってしまうが、瑠夏先輩は気にすることなく話をする。


瑠夏先輩のこういう器の大きいところがいいなって思う。




「詩編のことだ。お前、本当にこれでいいわけ?」


瑠夏先輩に問われる。

まるで世間話をするようなノリだ。



「私は詩編先輩に拒絶されたんです。だから、もう・・・。」



私が一緒にいたいと言っても、一緒にはいられない。




「そんなこと、関係ねぇよ。」


どうして、瑠夏先輩はそんなに強くあれるのだろう。



「一度突き放されました。もうこれ以上、詩編先輩に突き放されたくない。嫌われたくないんです!」


気づくと涙が溢れた。

瑠夏先輩が遠慮がちに、私の頭に手を回して顔を肩に押し付けた。




「本当は、一緒にいたいんだろ?」



私の頭を撫でる瑠夏先輩の手は温かい。


詩編先輩とは正反対だ。

余計に詩編先輩のことを思い出して、また凹む。







「・・・一緒に、いたいです。詩編先輩は、私を見つけてくれたんです。」






「その気持ちだけでいいじゃねぇか。何度だって、詩編にその気持ちをぶつければいい。失敗したら、その度に俺が涙を拭いてやるから。」


「瑠夏先輩ってカッコイイですね。」


褒めるとさも当然のように「知ってる。」と言われ、ムカつくから制服に鼻水までつけてやった。




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