4-4
瑠夏先輩と落ち合って、しばらく校内を遊び歩いた後、今度は何か食べようかと言うことになる。
流石にこの格好では厳しいので、一度屋上に向かう。
外に出たら強風が吹いていて、とてもじゃないけどのんびりは出来ないので、屋上へ出る階段の踊り場に落ち着いた。
少し埃っぽい。
「暑かったァー。」
と、着ぐるみを脱いだ瑠夏先輩は、解放されたようにパタパタと手で仰ぐ。
「何食べる?」
詩編先輩も死神の被り物を取って、階段に座ると文化祭パンフレットをペラペラめくった。
なんか、久しぶりだ。
ちゃんと詩編先輩の姿を見るのは。
瑠夏先輩の姿は準備期間に何度か目撃していたのだが。
「ん?」
あまりにもまじまじ見てしまったらしい。
詩編先輩は「どうしたの?」と言う風に私を見る。
「あ、んず飴食べたいです。」
私は誤魔化すようにパンフレットに視線をやり、たまたま目についたあんず飴を指差す。
「いいね。」
詩編先輩の意識もあんず飴に向いた。
「俺買ってくるわ。飲み物買いたいし。そこで待ってて。」
三人で行くと目立つので、瑠夏先輩がお願いすることにする。
パタパタと階段を降りて行く瑠夏先輩の姿を見送った後、詩編先輩はケラケラ笑う。
「心愛ちゃんに鍛えられたよね。」
「え、何がです?」
「だって、ほら。瑠夏が自分から買い物に行ってくれることなんて、今までなかったもん。」
心愛先輩のことを思い出す。
そういえば、瑠夏先輩に買い物をお願いしていたっけ。
それが習慣になってしまったのか。
改めて、瑠夏先輩なりに心愛先輩のことを想っていたのだろうなって思う。
そこに恋心があるかどうかは置いておいて。
しばらく詩編先輩と他愛もない話をして過ごしていると、下から階段を上がる音がした。
「瑠夏じゃない。」
詩編先輩が慌てて、私にキツネのお面を渡す。私はさっと装着。
でも、詩編先輩は死神の被り物の装着は間に合わなかった。
下から階段を上がってきたのは、他校の制服を着た女子高生だった。
その人を見た瞬間、何だかとても嫌な予感がした。
だって、詩編先輩の肩が震えたから。
「やーっぱり屋上かー!」
女の子は詩編先輩のことを見つけると、屈託のない笑みを浮かべる。
やっぱりって何?
詩編先輩が屋上好きなことをなんで知っているの?
あの瑠夏先輩でさえ、最初は気づかなかったのに。
「な、なみ?」
詩編先輩がその人の姿を捉えるなり、驚いたように目を見張る。
そして、その人の名前を呟いた。
私のことは名前で一度たりとも呼んでくれたことがないくせに。
どうして、その人の名前は呼ぶの。
何故だかわからないけど、今すぐ泣き叫んでしまいたい。
そんな気分だ。
「久しぶり。案外元気そうで驚いた。」
その女の子は、詩編先輩を見てにっこりと笑う。
座っている先輩と、数段下に立っている女の子の視線が、ちょうど同じ高さになる。
「あ・・・、うん。」
いつもは饒舌な詩編先輩が硬い。
動揺しているようにも見える。
何だろう、この感じ。
「詩編っ!!!」
二人のただならぬ雰囲気に疑問を感じた時、あんず飴とジュースを手にした瑠夏先輩が走って階段を駆け上がって来た。
声が、下の階まで聞こえたのかもしれない。
「あー、瑠夏君も一緒だったんだ!」
どうやら、瑠夏先輩とも知り合いらしい。
「何しに来たんだっ!」
走って来た瑠夏先輩は、私と詩編先輩を隠すように立ちふさがる。
びっくりした。
瑠夏先輩が急に怒鳴りつけたから。
そして、理由もなく瑠夏先輩が人を怒鳴りつけるような人じゃないことを知っているから。
それだけ、この女の子との間に、瑠夏先輩が怒るような出来事があったのか。
「そんなに怒らなくてもいいじゃん。ただ、詩編に会いに来ただけだよ。」
詩編先輩に、会いに来た。
そう聞いて、嫌な気分になったのは何故だろう。
今までだって、詩編先輩の周りには男女問わず大勢の人がいたじゃないか。
何を気にする必要がある?何も気にする必要なんてない。
周りにたくさんの人がいたって、詩編先輩は一度たりとも私を蔑ろにしたことなんてない。
だから、この人が来たくらいで私と詩編先輩の関係が変わるはずない。
変わるはずないのに、どうしてこんなに不安でいっぱいなのだろう。
ちらりと詩編先輩を見る。
先輩は、ただ無表情でじっと女の子のことを見ていた。
やっぱり様子がおかしい・・・。
「どの面下げて詩編の前に現れた?」
瑠夏先輩は相変わらず警戒心丸出しで、女の子を睨みつける。
「私が悪かったの。だから、もう一度「帰ってくれ!!!二度と、俺らの、詩編の前に現れないでくれ!!!」
女の子の言葉を遮って、瑠夏先輩が怒鳴りつけた。
でも、その背中は何だか泣いているようだった。
「変わったよね。その女のせいなの!?」
瑠夏先輩に釣られて女の子もヒステリックに叫ぶ。
隙間からギロリと睨まれて、私はビクッと震える。
その場に居合わせただけなのに、何で睨まれなきゃいけないのだ。
もう心の中は半泣きだ。
一歩、後ろに下がる。
「その子は関係ないよ。」
ここにきて、やっと詩編先輩が口を開いた。
驚くほど冷たい声だった。
「じゃあ、なによ!何が詩編を変えたの?」
「俺は何も変わってないよ。」
表情一つ変えずに平然と返す詩編先輩に女の子は臍を噬む。
「もういい。いつか、本当のあなたを知ったら、その子も離れていくわ。」
言葉は呪いだ。まるで、呪い。
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