4-3
文化祭当日。
時間は一気に飛んで、最終日だ。
クラスの係の関係で、先輩たちと回るのは、文化祭最終日の午後となった。
でも、天気の方は最悪だった。
”大変勢力の強い台風19号が、日本列島に接近しています”
今朝、家で観てきたニュースを思い出しながら、ため息をつく。
昼頃から強くなってきた風で窓がカタカタと音を立てる。
空も心なしか薄暗くなっているような気がする。
文化祭は、中止にはならなかった。
ただ、終わりは早くなりそうだった。
回れる時間は少ないだろうな。
外でやっている露店なんかは、台風を見越してか、もうすでに片付けの作業に入っていた。
そして、昼過ぎ。
「やあやあ。」
「よお。」
「お久しぶりです。」
人気の少ない廊下を選んで、詩編先輩と瑠夏先輩と落ち合った。
正しくは、全身真っ黒の死神の格好をした詩編先輩と、ピンクのウサギの着ぐるみを着た瑠夏先輩だ。
二人の格好が面白くてついふふっと笑ってしまう。
声を聞くまで誰だかわからない。
「お前もこれ。」
そして会うなり瑠夏先輩に渡されたのは、キツネのお面だった。
着ぐるみを着ているせいで、瑠夏先輩の声はくぐもっていた。
「これ、どうしたんですか?」
喫茶店の裏方は汚れるかもしれないと、もともと制服の上に着ていたパーカーのフードを被りお面を装着。
視界が狭くなる。
「うちのクラスお化け屋敷だから、借りてきた。」
詩編先輩がにっこり笑う。
宣伝のためなら持ち出しオッケーらしい。
しかも、お化けの役割はなくて、お化け役になるときに好きな衣装を選んでいいらしく、詩編先輩や瑠夏先輩が衣装を持ち出して着ていても誰だか特定はされない、と説明を受ける。
「よし、行くか。」
準備が済むと、私たちは3人で歩き出した。
校内はこういう変な格好をしている人がたくさんいるので、全然目立たない。
「最初にどこ行く?」
詩編先輩に問われて、考える。
行きたい場所・・・。
ああ、そうだ。一つだけ行きたい場所があった。
「先輩たちのお化け屋敷に。」
「え、大したもんじゃねぇって。」
希望を言うと、瑠夏先輩の顔が引きつった。
って、実際に見えないから、想像だけど。
明らかに、動きが硬くなった。
自分のクラスの出し物もダメらしい。
「瑠夏は待ってれば。」
詩編先輩は投げやりに言いながら、自分のクラスに足を向ける。
瑠夏先輩のこの反応を見てからかわないあたり、もうすでに散々いじり倒したか、面倒臭くなっただけだろう。
うーん、両者かもしれない。
三者が三者被りものをしてるせいか、会話はそこまで弾むわけもなく、先輩たちの教室の前にたどり着いた。
「3名様ですねー!どうぞ!!!」
台風予報が出ているせいか人出は少なく、並んではいなかった。
受付で笑顔で迎えてくれるお姉さんが、私たちをグイグイ押しいれる。
ただ、瑠夏先輩は全力拒否だ。
ここで声を出したら流石にバレてしまうだろうと考えたのか、両手でバッテンを作っている。
「失礼しましたー。2名様ですね。どうぞー!」
お姉さんに想いは伝わったらしい。
瑠夏先輩は廊下を指差して、手を振った。
廊下で待ってる、行ってらっしゃい、ってところか。
瑠夏先輩に見送られながら入ったお化け屋敷の中は結構暗かった。
「気をつけてね。」
詩編先輩がコソッと囁く。
「はい、・・・え。」
びっくりした。
急に手を握られたから。
冷たい手だった。
「転ぶと危ないから。」
私が戸惑ったのが伝わったのだろう。
詩編先輩は多分にっこりと笑って、余裕そうに歩く。
お化け屋敷は、かなりクオリティが高くてびっくりした。
こりゃ瑠夏先輩が嫌がるのもわかる気がする。
背後から腕を掴まれたときには、もう心臓が止まるかと思いましたよ。もう。
でも、なんだかんだ言って楽しかった。
外に出ると、自然と繋いでいた手は離れた。
それに、寂しいと思ってしまったのは、私だけだろうか。
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