4-1


瑠夏先輩の彼女騒動が落ち着いて、日常が戻ってきた。





「心配かけて悪かったな。」


秋も深まる頃、昼休みの屋上に瑠夏先輩が戻ってきた。

いや、戻ってきたというほど、屋上でともに過ごしていないけどさ。


それでも、やっぱり詩編先輩と瑠夏先輩と一緒にいることが普通になってしまったので、一人欠けると寂しい。



「本当だよ。しかも、俺がいない間に3人で仲良くなってるし?」


詩編先輩は不機嫌そうに、瑠夏先輩が買ってきてくれたプリンを貪っていた。

どうやら、心愛先輩の件で、自分だけ微妙に仲間外れにされたことに怒っているらしい。



「悪いって。」


「すみません。弁解ってわけじゃないけど、心愛先輩が急に話しかけてきたので、勘弁してください。」



あれは、不可抗力だと思う。

まさか心愛先輩の方から接触してくるとは思わなかったもの。




「でも、良い傾向だよね。俺や瑠夏以外に交友関係が広がって。」


詩編先輩はそう言いながらも、まだ不機嫌そうだ。

やっぱり、根に持っているらしい。


「お前、大人気ないよ。」


そんな詩編先輩の様子に、瑠夏先輩は口を挟む。


「うるさいな。」


ああ、ここでむくれるあたり、大人気ない自覚はあったらしい。

存外可愛いところもある。


私がクスクス笑うと、「そこ笑わない!」と厳しく突っ込まれた。





「そういえば、もうすぐ文化祭だよなァ。」


瑠夏先輩の買ってきたプリンを平らげたころ、ふと瑠夏先輩が思い出したように言う。

そういえば、そんな季節だったな。


クラスのみんなが浮き足立っていた。


結局、クラスのみんなとはうまく馴染めないまま秋になったがため、文化祭は憂鬱だ。

別にいじめられているわけではないけど。




「クラス出し物、何やるの?」


機嫌が直ったらしい詩編先輩が問いかけてくる。



「えと、確か喫茶店です。」


「確かって・・・!」


クラスに参画してないなーと二人に笑われる。



「笑うなんて酷い。傷つきました!」


ぴしゃりと言い放つ。


あー、なんかさっきの詩編先輩みたいな窮地に陥っている気がする。

でも、前ほど気にならなくなった。


一人でいたいくせに、孤立していることに引け目を感じていることに。


それは、詩編先輩や瑠夏先輩のおかげかもしれない。




「先輩方のクラスは何をやるんですか?」


「お化け屋敷だよね。」


詩編先輩が楽しげに話す。


一方、瑠夏先輩は「あーうん。」と微妙な反応だ。

なんか察し。



「お化け苦手なんですね。」


「んなことねぇ!って、端っから決めつけるなよ。」



ニマニマして告げると怒られた。

図星だ。





「そうだ。文化祭はみんなで回ろうよ。」


詩編先輩が嬉々として提案する。



「え、でも・・・。」


それって目立ちますよね?


私の表情が曇る。



「お前さ、コイツのこと考えてやれって。俺らといたら注目も的だぜ。コイツ目立つの苦手なんだから・・・。」


どう断ろうかと考えていたら、瑠夏先輩が言ってくれた。

さっきはからかってごめんなさい、と心の中で謝る。


正直、揺れた。

だって、二人と文化祭を回れたら絶対に楽しいもの。


でも、そんなことは夢のまた夢である。



この二人と一緒に歩こうものなら、注目の的だし、絶対に女子の反感を買う。


私はそれに耐えられる鋼のメンタルなんて持ち合わせていない。



「ふむ・・・。」


断られててっきり残念そうな顔をされると思ったが、詩編先輩は何か考え出した。


「おい・・・?」


瑠夏先輩もなんだか訝しげに詩編先輩を見る。



「要は、目立たなければいいんでしょ?」


「まあそうですね。それと、先輩たちと一緒にいるのが私だって女子たちに知られるのも無理ですね。」


「わかった。俺に良い考えがある。」


にっこり笑った詩編先輩になんだか嫌な予感がした。


絶対何か企んでるー!!!


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