3-12




「大丈夫。今週いっぱいでお別れだから。」と言った心愛先輩は、金曜日の放課後に瑠夏先輩と私、ついでに詩編先輩もを呼び出した。


今日でこの高校を去る彼女の両手には、友達からもらったと思われる花やプレゼントがたくさんあった。

こんなにも色々な人と繋がっていたはずなのに、なぜ心愛先輩は最後に瑠夏先輩を選んだのだろう。



「別れよう。困らせてごめんね。」


心愛先輩が寂しそうに呟いた。

彼女は泣きそうに、笑っていた。



「やるよ。」


そんな心愛先輩に、瑠夏先輩はポケットからペットボトルの飲み物を出して、差し出した。

それはカフェラテでもカフェオレでもなく、ココアだった。



「あ、りがとう・・・。」


心愛先輩は一瞬驚いた様子だったが、お礼を言ってそのココアを受け取る。




"将来、カフェラテを見る度にほんの少しだけ私のこと思い出して欲しかっただけなの。"


なんて、心愛先輩は言ったけど。

カフェラテだけじゃない。


きっとカフェオレでもココアでも、瑠夏先輩はきっと心愛先輩のことを思い出すのだ。





「未来の話をしよう。」


それから、瑠夏先輩はさらに口を開く。



「ん?」


首を傾けた心愛先輩の、ショートカットの髪が揺れた。




「お前が日本に帰ってきたら、一緒に飯食いに行こうぜ。」



それは再会の約束だった。

瑠夏先輩なりの心愛先輩への餞別だろうか。



「う、うん!その時は、李鈴さんも、詩編君も・・・、一緒で。」



暗い顔をしていた心愛先輩の顔がパッと輝く。

明るい笑顔の、いつもの心愛先輩の姿だった。





「楽しみに、してます。」


彼女と目があって、私は言葉を口にする。



・・・いつかまた。





そうして、心愛先輩はアメリカへと旅立って行った。

よく晴れた、夏の終わりのことであった。



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