3-11
色々考えてしまったのだが。
結論は、ひとつ。
瑠夏先輩は、詩編先輩の秘密を守るために、彼女さんと付き合っているのだと思う。
このまま詩編先輩に黙っていていいのだろうか。
でも、瑠夏先輩とは約束したし。
それに、私はこの件について傍観者でいることを決めた。
それが、思わね形で巻き込まれることになろうとは思わなかったけど。
「ねぇ、聞いてたでしょ。」
「へ?」
最近、急に話しかけられることが多い気がする。
この日は快晴で、詩編先輩の元へ行こうと階段を登っていた。
急に声をかけてきた彼女は、踊り場で私を待ち構えていたらしい。
「
この人は、瑠夏先輩の彼女だ。
「李鈴です。」
律儀に自己紹介をされてしまったため、反射で返答する。
「それで、私が瑠夏と中庭とか階段で話していること、聞いてたでしょ?」
よく知らない人に話しかけられてすっかり萎縮してしまった私を心愛先輩は気にすることなく話を進める。
周りを気にしないタイプらしい。
というか、バレてた・・・。
まあ、階段での件は瑠夏先輩にもバレているし、一緒にいた心愛先輩が気づいてもおかしくないと納得する。
「すす、みません・・・。」
私が萎縮して謝ると、心愛先輩は「別に怒ってないよ。」と言う。
じゃあ、なんなんだ。
なんで、私に話しかけてきたの。
勘弁してほしい。
なんて、私の心の声が聞こえるはずもなく、心愛先輩は話を進める。
「酷い彼女だと思った?」
首を傾げたときに、彼女のショートカットの髪が揺れる。
「いえ・・・。」
私は精一杯の否定をした。
「いいよ。自分でもわかってるから。瑠夏を困らせてることくらい。」
でも、高級ブランドは強請ってないから。
なんてニコニコ笑う心愛先輩に私は戸惑った。
「はあ。」
わからない、な。
この人の真意がわからない。
「何か、言いたいことある?」
あまりに喋らない私に気を使ったのか、問いかけてきた。
急すぎて言いたいことなんてない。
私の頭はすでにキャパオーバーだ。
「いえ・・・。」
ふるふると首を振ると、心愛先輩は疑いを含んだ眼差しで私を見つめる。
「本当かなぁ。てっきり私は瑠夏先輩と別れてって言われるかなって思ったんだけど。」
そう言われて、私は目を丸くする。
その考えはなかったな。
「言いませんよ。」
はっきりと告げる。
この先輩は私が瑠夏先輩のことを好きだと、勘違いとかしてないよね?
そんなことを考えて、一蹴する。
いや、それはない。
きっとコソコソと様子を伺っていたから、気になっただけだろう。
「どうして?」
別れろと言わない理由について、心愛先輩は問いかける。
知りたいことは全て聞いてしまう質らしい。
私にはそんなこと到底できないので、羨ましい限りだ。
「だって・・・。」
ただ、この理由について告げていいのか迷う。
心愛先輩が嫌な気持ちにならないか心配になる。
「そこまで言ったなら、最後まで言ってよね。」
急に尻込みした私に彼女はキツめに告げる。
有無を言わせない感じだ。
「瑠夏先輩を困らせる度に不安そうな顔して、瑠夏先輩が受け入れてくれる度にホッとしたような顔してましたから。」
告げるように言ったのは彼女だから、嫌な気持ちになるのも勝手だ。
と、勝手に解釈し、腹を括って私は話した。
「え?私そんな顔してたの?あっちゃー、こりゃ瑠夏にもバレてたな。」
なんて軽々しく言う瑠夏先輩の彼女は噂とは全然違う。
やっぱり噂って当てにならないな。
そして、嫌な気持ちになったわけではなさそうなので、ひとまず安心。
「どうして、瑠夏先輩を困らせるんですか?」
ひとつ、どうしても聞きたいことがあった。
心愛先輩がなんでもバシバシ聞く人だったので、私もそれに乗せられてか、勇気を出して聞いてみた。
「私ね、来週からアメリカに行くの。」
突拍子も無い話だったが、突っ込むことはしなかった。
「旅行ですか?」
「ううん。・・・引っ越し。」
「そう、ですか。」
引っ越すということは、もうしばらく日本には帰ってこないということだ。
瑠夏先輩と過ごすのも、今週で最後。
「誰でも良かったの。」
「え?」
「ただ、誰かの思い出に残りたかった。」
その言葉が、なんだかとても痛かった。
「そうですか。」
かろうじて相槌を打つ。
誰でもいいなんて、きっと嘘。
この人は勝手な人かもしれないけど、そんなに酷い人ではないと思う。
何か理由があって、瑠夏先輩を困らせていたのだと、思う。根拠はないけど。
「将来、カフェラテを見る度にほんの少しだけ私のこと思い出して欲しかっただけなの。」
まるで消えてしまうみたいな言い方。
アメリカに行ったら、全てが終わってしまうような言い方。
この人は死を覚悟してアメリカに行くのだと、根拠もないのに勘繰ってしまった自分が嫌だった。
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