3-8




少し、寂しい。



悔しそうに漏らされた言葉の真意は、どこにあるのだろう。









昼休み。

チャイムが鳴るなり、お弁当が入ったトートバックを引っ掴んで教室を飛び出した。


いつもは目立たず生きていた私の行動に、クラスメートが驚いた反応をした気がするが、今はそんなのどうだっていい。




「詩編、先輩!」


「やあ。今日は、早いね。」



屋上には、詩編先輩がいた。



チャイムが鳴って、すぐさま屋上に走ってきたはずなのに。

詩編先輩は、走ってきた形跡もなく、屋上でのんびりと座っていた。


・・・サボりだ。

不良生徒がここにいる!



でも、今は違うことに気を取られていた。




「寂しいって、どういう意味ですか?」




突然の脈絡のない質問に、詩編先輩は戸惑った様子は見せなかった。


「ああ、昨日の話?」


なんもないことのように、私の言いたいことを理解してくれる。


「そうです。」


私はしっかりと詩編先輩を見る。



目は、合わなかった。


なぜなら、詩編先輩がどんよりと曇り気味の空を仰いだからだ。





「なんでだろうね。」



「え。」



「自分でも、よくわからない。」




吐き出された言葉は、意外なものだった。




表現力豊かな先輩が言葉で言い表せないこと。

そのくらい、複雑な気持ちなのだろうか。


まあ、本人がわからないと言っている感情を私がわかるわけもなく。





「手を出してもらえますか?」


考えた末の行動は、なんだか幼稚園児みたいなものだった。



「手?」


「詩編先輩の寂しさが、消えるように。」



触れた手は、冷たかった。



陳腐な言葉と、気休め程度の触れ合い。

これで、詩編先輩の寂しさが消えゆくわけではないけれど。



いつも、寂しそうに笑う先輩が、少しでも救われたらいいのになって思った。











この時の詩編先輩の心情を私が知ることはなかったけど。


わからないって言ったのは、わかっていたけど言いたくなかっただけ。


自分の中の惨めな感情を、言いたくなかったのだと。

私の前では綺麗でいたかったのだと。




後になって、私は詩編先輩に聞いた。




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