3-7
「ねぇねぇ、面白いものが見えるよ。」
とある日の屋上。
やっぱり瑠夏先輩は来なくて、詩編先輩と二人で過ごす。
先輩は珍しく屋上の柵から身を乗り出して下を見ていた。
「危ないですよ。」
そう言いながら詩編先輩の横に立ち、恐る恐る下を覗き込む。
「うん。だから、君も気をつけて。」
校舎の裏庭。
芝生が植えられ、庭園のように綺麗に整備された場所に、私は見知った人の姿を見つけた。
「瑠夏、先輩。」
思わず名前を呼んでしまう。
かろうじて小声にしたから、聞こえていないはず。
瑠夏先輩の隣には、ショートカットの小柄な女の子の姿がある。
噂の彼女だろうか。
耳を澄ますと、声が聞こえる。
「瑠夏、私カフェラテがいいって言ったのに。」
「カフェラテ買ってきただろ。」
「違うよー。これはカフェオレ。」
「どっちも同じだろ。」
「違うもん。」
可愛いなぁ。
上からだから顔なんて見えないけど、雰囲気で可愛いのがわかる。
キラキラしていて、悩みなんてなくて、人生が充実している女の子。
「あーわかったわかった。買い直して来るから待ってて。」
「ううん。今日はこれで我慢する。」
「そっか。今度は気をつける。」
やっぱり噂は当てにならない。
この光景を見る限り、瑠夏先輩の彼女が我儘にはとても見えない。
前に急に瑠夏先輩が呼び出された時は、何か事情があったんじゃないかな。
人間の面は、一面だけじゃない。
裏と表どころか、たくさんの面で出来ているのだと思う。
だから、見えている面だけで、他人を判断すべきではない。
きっと、瑠夏先輩の彼女にだって、色んな面があるはずだ。
「可愛らしいですね。」
「そうかなぁ。」
私の感想に、詩編先輩は首を傾げる。
これ以上、盗み見るのは失礼な気がして、私は頭を引っ込めた。
「瑠夏先輩って、目付きが鋭くて愛想笑いもあまりしないから、関わりにくそうに見えるけど、本当はすごく優しいですよね。」
「知ってる。」
私の言葉に当然のように頷く先輩に少し違和感を覚える。
いつもだったらすごく饒舌で、先輩ばかり話しているのに。
今日は、口数か少ないような・・・。
「・・・詩編先輩?」
心配して覗き込むと、光に照らされた先輩のブルーの瞳に影が落ちる。
「少し、寂しい。」
ポツリと漏らしたその声は、どちらかというと悔しそうだった。
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