3-6


「すみません、詩編先輩。」


あの後、連絡を受けた詩編先輩はすぐに私と瑠奈ちゃんの元へ駆けつけてくれた。


慌ててきてくれたようで、髪の毛が少し乱れている。

服装も、部屋着のようなラフな格好だ。



「あー、むしろ瑠夏がごめん。」


詩編先輩が複雑そうに私に手を合わせた。


よくあることなのだろうか。



「しー君、久しぶりだね!」


瑠奈ちゃんが嬉しそうに詩編先輩に声をかける。

兄に急に置いていかれたというのに、瑠奈ちゃんは全然平気な顔をして私とお喋りをしながら、詩編先輩を待っていた。


「うん。久しぶりだね。」


詩編先輩は瑠奈ちゃんの頭をポンポンと叩く。



「元気だったぁ?」


「あーうん。元気元気。瑠奈ちゃんは?」


「瑠奈も元気!」


二人から感じる雰囲気に、瑠奈ちゃんと詩編先輩は、結構前から知り合いだったのかなと感じる。

そうすると、詩編先輩と瑠夏先輩が結構前からの友達であることもわかる。



「よし、帰ろうか。悪いんだけど、先瑠奈ちゃんを家に送ってもいい?」


詩編先輩が私に問いかけた。


先に、送る。

つまり、私も家に送ってくれるということ・・・?



「一人で帰れますよ?」


「だーめ。」


私が断ろうとすると、にっこり笑った詩編先輩に腕を掴まれる。

まるで、私が断るのを予測済みであるかのようだ。




「帰り道なら知ってます。」


「危ないから、ダメ。」


「・・・。」


もう一度、一人で帰れると主張したが、詩編先輩はがっちり私の腕を掴んで離さないので、私はおし黙る。


詩編先輩は、そうやって当たり前のように何人もの女の子を家に送ってきたのだろうか。



「さ、行くよ。」


そう言う、詩編先輩の左には瑠奈ちゃん、左には私で、私は今の思考を頭から排除した。


これは、女の子というよりは、小学生の瑠奈ちゃんと同じ扱いだ。

そう思うと、スッキリした。


いや、小学生と同じって、全然良くないんだけどさ。



さっき瑠奈ちゃんに聞かれた質問を思い出す。

詩編先輩の彼女かどうかってやつ。


でも、私は詩編先輩とどうこうなりたいわけじゃないのだ。

きっと、そうなっちゃいけない。


私は詩編先輩からすると、数多い知り合いのうちの一人なのだから。

詩編先輩の特別になれるわけがないのだ。


たとえ、私から見て、詩編先輩が何人かいる知り合いのうちの一人だったとしても。

いや、たった二人いる友達の一人だったとしても。






「しー君さぁ、好きな人とはどーなったの?」


三人で夜の住宅街を歩いていると、瑠奈ちゃんが歩きながら詩編先輩に問いかける。



好きな人、いるんだ。


瑠奈ちゃんの口からそれを知ってちょっと落胆する。

私には、それすら教えてくれなかったのに。


ショックなのだろうか?



「んー、どうもしないよ?」


そんな私の気持ちを知らずに、詩編先輩は瑠奈ちゃんににっこり笑いかける。



「えー、早く告っちゃいなよ。しー君、かっこいいだから、告白したら誰でもOK貰えると思う!」


瑠奈ちゃんが詩編先輩にガッツポーズをする。


それにしても、瑠夏先輩の妹とは思えないほど、恋愛話が好きな子だなっと思う。


私も瑠奈ちゃんの意見には賛成なので、うんうんと頷く。



「かっこいい?ありがと。」


だけど、詩編先輩は告白のくだりを完全にスルーして話をそらす。


何故だろう?触れちゃいけないような、そんな雰囲気が詩編先輩からひしひしと感じる。



「おにいには負けるけどねー。」


「えー、俺の方がかっこいいでしょ〜。」


ごまかしがあからさま過ぎたが、小学生の瑠奈ちゃんは気付かなかった。



ズルいなぁ。

あまりにも詩編先輩があからさまに話したがらないから、私は何も言わなかった。いや、言えなかった。






「あっ、しー君、お姉ちゃん!」


瑠奈ちゃんが声を上げた。



「うん?」


「なに?」


「星が出てるよ!」


瑠奈ちゃんが空を指した。



私と詩編先輩は上を見る。

夜空には雲がかかっていたが、その隙間から星がいくつか顔を出す。


「本当だ。綺麗だねー。」


星をじっくり見るのって何年ぶり?


私の中で夜空に星が広がることは、ありふれた日常で、目に留めもしない。

でも、小さい瑠奈ちゃんは、そんな日常を拾い出す。


いつから私はこんなにつまらない人間になってしまったのだろう。



「おにいがね、死んだ人は星になるって言っていたの。それって本当?」


瑠奈ちゃんが無邪気に問いかける。


そういえば、私も幼い頃そうやってお母さんに教わった気がする。

でも、本当のところ答えは誰にもわからない。



「さあね。人によって色々な考えがあるから。」


詩編先輩が曖昧な言葉で返した。



「えー?じゃあ、しー君はどう考えているの?」


賢い。

さっきの詩編先輩の返答からして、先輩は別の意見を持っていることに瑠奈ちゃんが気付いている。





「秘密。」


詩編先輩もそこまで追及されるとは思っていなかったようで驚いていたが、藍色がかったブルーの瞳で瑠奈ちゃんを覗き込みながら、にっこり微笑んだ。


女の子を誤魔化す手口を垣間見てしまった気分だ。




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