3-1



瑠夏先輩が現れて、私の日常がちょっぴり変化した。



例えば、授業中とか。

教室の窓際一番左後ろの特等席を相変わらずキープしている私は、授業中に時折あくびを噛み殺しながら校庭に視線をやる。

それは日課だった。




でも、最近、たまに瑠夏先輩を発見する。


週に何回か、瑠夏先輩は校庭で体育の授業を受けていて、その姿が目に入ってくるのだ。

ただ、黙って見ているなら、今までと大差ない。


変わったことと言うのは、瑠夏先輩が私に気付いて手を振ってくれるということだ。


だから、私も先生が黒板の方を向いている隙に手を振り返す。



私はこの時間がちょっぴり楽しみだった。


ただ、黒髪の瑠夏先輩は見つけられても、明るい髪色の詩編先輩を見つけることはない。



最近、疑っていることがある。


詩編先輩は運動音痴を隠すために、体育の授業をサボっているんじゃないかってことだ。



真相はさておき、毎度詩編先輩の姿を探しては落胆している自分もいて、少し陰鬱にもなる。


でも、よく考えてみると、もし詩編先輩が体育の授業に出席していたって、きっと私に手は振ってくれない。



多数の友達に囲まれて、遥か遠くにいる私になんて目もくれないだろう。


だって、廊下ですれ違った時だって、私に気付くのは瑠夏先輩だけだ。



私の性格に配慮してか、瑠夏先輩は周りの人たちに気付かれないように、口角をそっとあげて視線を合わせてくれる。


凄くありがたい。

話はそれたが、瑠夏先輩がこっそりコンタクトを取ってくれたところで、詩編先輩は見向きもしないのだ。


気付いているのか、いないのか。



もし気付かないふりをしているなら、やっぱり詩編先輩は残酷だと思う。




そして、そのことに触れられない私はやっぱり臆病者だ。









つまるところ、私が詩編先輩に本当の意味で会えるのは、屋上だけなのだ。



「瑠夏先輩、これからは毎日来るとか言ってたくせに、全然来ないですよね。」


私は、いつものようにお弁当を広げながら詩編先輩に話を振る。



「あー・・・。」


「何か知っているんですか!?」


詩編先輩の微妙な反応に、私は食い気味に問いかける。


すると、詩編先輩は少し困った顔をする。

言いにくそうだ。


だが、私も引き下がるつもりはないので、詩編先輩の話を待つ。




「彼女でも出来たんじゃない?」


「なるほど。」


それなら、納得だ。

彼女が出来たのなら、そっとしておいてあげよう。


そして、今度校庭にいる瑠夏先輩と目が合ったら、「おめでとうございます!」と口パクしてあげよう。




「ところで、俺と二人じゃ不満なの?」



なんて、考えていると、詩編先輩に箸を持った腕を掴まれる。


掴んだ卵焼きがぽとっと落ちて、ちょうどお弁当箱に戻る。



「そんなことないですよ。」


私は首を横に振る。



「あーあ、やっぱり瑠夏に紹介するんじゃなかった。」


「え?」


驚いて、目を見張る。


なんで今更そんなこと言うの。



「だって、君の半分を瑠夏に持ってかれちゃった気分。」


心がえぐられる。


昼休み以外は、私のことなんて見向きもしないくせに。

なんでそんなこと言うの。



憂鬱なブルー。

底知れぬ海の色。


詩編先輩に呑まれると、すごく苦しい。



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