2-10


「ふー、やっと追いついた〜。」


少しだけ汗ばみながら、詩編先輩が私たちの元へやってきた。



「意外と早かったな。」


「まあね。」


肩で息をしながら、詩編先輩が誇らしげな顔をする。



そこ、誇るところじゃないけど。

本当に運動が苦手なんだな。


心の中ではそう思ったけど、黙っておくことにした。



「ところで、話は済んだ?」


詩編先輩が落ち着いたところで、そう切り出す。



「はい。詩編先輩も、すみません。せっかく今日遊びに誘ってくれたのに。」


「瑠夏と仲良くなれたみたいでよかった。」


詩編先輩は全然気にしていない様子で、にっこりと笑った。



そして、この日は、私が酷い顔をしているからと、解散となった。

また改めて、三人で会う約束をした。









「なあ、李鈴。」


改札に入る手前で、瑠夏先輩にこそっと名前を呼ばれて、ドキリとした。


詩編先輩は、券売機でICカードにチャージをしている。




「何ですか?」


瑠夏先輩の方を見ると、驚くほど真剣な顔をしていて、私はひどく戸惑った。




「詩編のこと、手を放さないでやって。」



何で、そんなこと言うんですか?


そう聞こうとしたけど、詩編先輩が戻ってきてしまって、聞くことは叶わなかった。






その理由を、もっとちゃんと聞いていたら、未来は変わったのか。

いいや、そんなことはないだろう。



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