2-3


待合せの駅まで行くと、そこは人混みだった。


やっぱり、帰りたい・・・。

人間が苦手な私には、敵のテリトリーに乗り込んだ気分だ。


こんなんじゃ、詩編先輩を見つけるのは大変だな。



そう思いスマホを取り出すと、ちょうど電話がかかってきた。



「はい、李鈴です。」


『あ、どこいる?』


少しだけ緊張しながらも電話に出ると、詩編先輩のいつもの掠れた声が聞こえた。



「改札の前です。」


『俺もそこにいる。』


そう言われて辺りをきょろきょろと見回すと、サングラスをしていて色素の薄い髪の人を見つけた。



「あっ、見つけました。」


詩編先輩は良くも悪くも目立つ。

今だって周りの女の子たちから、ちらちらと見られている。

というか、地味に囲まれている。



『え、どこどこ?』


私の言葉に先輩は慌てて辺りを見回すけど、私は視界に入らない。



少しだけ、落胆した。

同時に、やっぱりね、とも思った。


私が詩編先輩を見つけることはあっても、詩編先輩が私を見つけることはないのだ。




「そこにいて下さいね。」


キョロキョロする先輩が可愛くてちょっと笑うと、私は勇気を出して先輩の方に足を進めたのだった。








「こんにちは。」



おずおずと声をかけると、先輩はやっと私に気付いてサングラスを外した。


先輩は黒のパンツに白のパーカーを着ていて、思ったよりシンプルな格好だった。

サングラスは例外だけど。




「あれ、いつもより身長高い。」


そんなことを考えていると、急に頭の上に手が載った。



「ああ、今日は厚底履いてるんで。」


そう言いながら、私は足元を見る。



今日はほんの5㎝くらい身長が高めだ。

でも、そんなぱっと見でわかるほどの変化はないと思うけど・・・。


私が高い靴を履いても、残念ながら先輩と同じ目線には立てない。




「あの、友達っていうのは・・・?」


「あいつ遅刻魔なんだよねー。」



私の緊張気味な問いかけに先輩が笑いながら辺りを見回す。


このまま友達は来なくてもいいのに。




なんて酷いことを心の内で思ったけど、現実は甘くない。

そんなこと知ってる。







「遅くなってごめん。」


そう言って現れたのは、詩編先輩とは対照的な黒髪の男の人だった。


私は思わず詩編先輩の影に隠れる。



「これ、瑠夏るかっていうんだ。」


先輩は私が隠れたのに気付いて少し笑いながら横に一歩動いてその人を雑に紹介する。



「おい、これとは失礼な。

えっと、こんにちは。瑠夏です。詩編の友達です。よろしくお願いします。」


瑠夏先輩と言う人は、直立して私に自己紹介をした。


詩編先輩とは違って、程よく日に焼け、がっしりとした身体。

運動が得意そうな、そんな雰囲気を出している。




「なんで似合わない敬語使ってるの。」


そんな彼に向かって、詩編先輩はからかうように言う。



「うるさいな。緊張してるんだよ!」


緊張、してるんだ。


詩編先輩の友達だから、交友関係広くて、初めての人でもどんどん話せる人なのかなって思ってた。

はっきり言うと、陽キャの代表みたいな人かと。



でも、違った。

見た目こそは目立つけど、緊張していると言う彼を見ると、少し好感が持てる。




「ほら、自己紹介しなよ。」


じっと瑠夏先輩のことを見ていると、詩編先輩が私のことを肘でつつく。



「あ、えと。李鈴リズです・・・。よろしくお願いします。」



瑠夏先輩は目が合うと、人懐っこく笑ってくれた。


そんな様子を見た詩編先輩が「よくできました。」と言う代わりに、ぽんぽんっと私の頭を二回叩いた。



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