1-8





詩編先輩は有名だ。それは周知の事実だろう。






だから、詩編先輩が学校に来ていないだけで噂になる。



「風邪は治ったんですか?」


梅雨が明け、久々にすっきりと晴れた月曜日でない今日。

詩編先輩は、何食わぬ顔で屋上に現れた。



「何だ、知ってたの。雨だから俺がいなくても気付かないと思ってたのに。」


詩編先輩が少し残念そうに言う。


そして、私のお弁当から卵焼きを奪い取る。

これはもういつものことなので、何も言わない。



「私が知ってちゃまずいみたいな言い方ですね。」


少し皮肉を込めて言うと、先輩は私から視線を逸らした。



「風邪で二週間も休んだとか、かっこ悪いじゃん。」


それから、半分くらい袖に隠れた手で、顔を覆う。



なんだ、そんな理由らしい。

詩編先輩がそんなことを気にするなんて、ちょっと意外だ。



「せっかく心配したのに。」


でも、隠すつもりで言われてしまうと、心配して損をしたような気分になる。



「え、心配してくれたの?」


ボソッと言ったつもりだったが、どうやら私の呟きは聞こえたらしい。

地獄耳め。



「・・・しましたよ。」


先輩の顔が輝いていて、認めるには少し腹立たしかったが、先輩のブルーの瞳に弱い私は認めた。






「俺のこと興味ないのかと思ってた。」


興味ない、か。

ここで私が興味ないといったら詩編先輩も離れていくのだろうか。



「そういうつもりはないんですけどね。」



でも、他の人たちに比べて、興味関心が薄いのも確かだ。

小学校の通信簿に、もっと色々なことに興味を持ちましょうって書かれたし。


「なら君も、大丈夫ですか?って連絡くらいちょうだいよ。」


先輩は私の言葉にあっさりと返す。


いや、そもそも詩編先輩の連絡先を知らないし。



君も、と言うことは、詩編先輩はきっと他にたくさん、心配の連絡を貰っているのだ。


そう思うと急に腹が立った。

なんだか無性に腹が立った。



「用事、思い出しました。

今日は先に戻りますね。」


この場を離れたくって、私は嘘を並べると、食べかけのお弁当を早急にまとめて屋上を後にした。




先輩の自意識過剰発言に腹が立ったのだ。

断じて、他の女子と同じ扱いをされたのに腹が立ったのではない。



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