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詩編先輩は、小説家らしい。


そんな噂を耳にしたのは、入学してから一週間も経たないうちだった。




少し彫の深い顔。色素の薄い瞳や髪の色。

瞳の色がブルーっぽくてシアンなんて名前だから、最初は外国人なのかと思っていたが、実はハーフ。


顔が綺麗で、それだけで注目の的なのに、その上に小説家というのだから驚きだ。




噂を耳にした放課後、早速私は本屋に立ち寄った。


ペンネームなんて知らないから、見つかるはずないけど、ちょっと見に行くだけ。


そう思って立ち寄った本屋の片隅に、「花曇詩編」という名前を見つけた時に、私は心が躍った。

これだ。間違いない。


どうやら苗字だけは本名ではなく「花曇」に変えてあるらしい。


初めて会ったときに、詩編先輩は「花曇り」という言葉を教えてくれたから、詩編先輩本人であると確信した。



因みに「花曇り」と書きつけてあるメモは、未だに手帳の中にしまってある。




私は「花曇詩編」の本にそっと手を伸ばす。





たった一冊本屋に置いてある詩編先輩の本のタイトルは「雨宿り」。


でも、開けなかった。


開けてはいけない、パンドラの箱。



これを読んだら、私は詩編先輩のことが分かるのだろうか。

知りたい。でも、なんだかそれは勝手に覗き見るようで狡い気がした。





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