1-5


「今日は良い天気ですね。」


私は空を見上げながら呟く。



雲一つない快晴だ。


じりじりと虫の鳴く声だとか、少しじめっとした空気だとか、強い日の光だとか、夏の訪れの予感がする。




「そうだね。憎たらしいほど良い天気。」


私の言葉に先輩は恨めしそうに同意した。


空を見ては、眩しそうに目を細める。




「太陽の光が苦手なんですか?」



なんかあれだ、ヴァンパイアみたい。

色が白くて、光に弱くて。



「そう、眩しいのが苦手。サングラスでも買おうかなぁ。」


顔を腕で覆っていて、先輩の声が少しくぐもる。



「それ以上、不良っぽくなってどうするんですか。」


私の突っ込みに、先輩は楽しげにからから笑った。


そのタイミングで、昼休み終了のチャイムが鳴る。

あと五分で、授業だ。


私は広げていた荷物をせっせと片づける。

それを横目に、先輩はごろっと屋上に横になった。





「チャイム鳴りましたよ。」


ひと言、声をかけるけど、先輩は動こうとはしない。



「次の授業、体育だからサボる。俺、運動苦手なんだよね。」


前言撤回。この人はれきっとした不良だ。



「じゃあ、私は行きます。」


私が立ち上がろうとすると、先輩に制服のスカートを掴まれた。





「もう少し一緒にいてよ。」


先輩が薄目で私を見る。



光の加減で少し暗いブルー。


実を言うと、私は色んな色に変化する詩編先輩の瞳が好きだ。

だから、その瞳にいつも負けそうになる。


先輩だって、きっとわかってやっている。

そういう瞳をすれば、そういう顔をすれば、女子が先輩に弱いってことを。


それでも私は、そんな魅力的な誘いを断る。


先輩を囲む女子たちと同じようになりたくないから?

いや、違う。

怖いからだ。


先輩とこれ以上仲良くなるのが、怖いからだ。




昼休みだけ。非日常は昼休みだけで十分だ。


12時の鐘で城を去らなければならないシンデレラの気持ちが少しだけわかる気がする。


昼休みが終わるチャイムが鳴ったら、私も詩編先輩の元を去らなければならない。



でも、私がシンデレラと違うのは、また次の昼休みがあること。

非日常が日常へと化す。でも、私は認めない。





「また月曜日の昼休みに会えますよ。」


そう言うと、先輩は「約束ね?」と拗ねた子供みたいに私のスカートを離した。




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