1-3
教室を飛び出して曇天の屋上に出ると、春のぼんやりとした陽気に安心感を覚える。
自分がまるで存在していない教室にいると、時々息がつまる。
別にいじめられているわけではないのに。
教室の端っこに心地よさをおぼえているのに。
ときどき、どうしようもなく苦しくて抜け出したいときがある。
息を深く吸うと、花粉の臭いが鼻を擽った。
鼻がむずむずする。くしゃみが出そうで、出ない。
柵に近付いて景色を見渡すと、眼下に見えるのは桜色。
今年は開花が遅かったからか、入学式を迎えて三日経ったこの時期でも満開だ。
しばらく柵に手をついて桜の散りゆく様を見ていると、不意に背後からゆっくりとした足音が聞こえた。
気になって振り返ると、緑がかったブルーの瞳と目が合った。
綺麗・・・。
ダボッと着崩した制服。
耳にはたくさんのピアス。
金髪がかった色素の薄い髪。
この人、不良だ。
ここから立ち去らなきゃ。
小心者の私が不良と対峙するには無理がありすぎる。
そう思っているのに、私の足は、身体は、目は、あのブルーの瞳から離せない。
頭が真っ白になって、茫然と立ち尽くす私に、目の前の綺麗な男の人は口を開いた。
「花曇り。」
少し掠れた小さな声。
想像と違った。
綺麗な人だったから、もっと透き通るような綺麗な声かと思っていたのに。
「え・・・?」
目の前の綺麗な人が何を行ったのかわからなくて、私は思わず聞き返した。
その様子を見た彼は、ゆっくりとした動作で一歩、二歩と私との距離を縮めると、もう一度言葉を発した。
「今日みたいな天気を、花曇りっていうんだ。」
やっぱり少し掠れた声をしていた。
急にそんな話をされた私は小首を傾げたが、彼は「花曇り」という言葉が分からないのかと認識したらしい。
ポケットから小さなノートを取り出すと、「花曇り」と癖のある字で書きつけた。
「こう書いて花曇り。今日みたいな桜の咲く季節の少し曇った天気のことを言うみたい。」
そう言いながら、彼はびりっとそのページを破って私に差し出した。
私は思わずその紙を受け取る。
「あ、の・・・。」
勇気を出して声を発したが何て話しかけたらよいのか悩んで、口をつぐむ。
「ん?」
そんな私の様子を察した目の前の人は伏し目がちに小首を傾げて、私の言葉を待ってくれる。
少しの沈黙。
小鳥のさえずりがどこからか聞こえてきた。
「あの、貴方は誰ですか?」
時間をかけて発した言葉はそんな陳腐なものだったけど、私には最大限頭をフル回転させて絞り出した質問だった。
その言葉を聞いて、彼は自分が急に話しかけたことを自覚したらしい。
「ああ、ごめん。自己紹介してなかったね。俺の名前は、
綺麗なグレーがかったブルーの瞳と目が合って、一気に緊張した。
「
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