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「そろそろ友達出来た?」



失礼にもほどがある。


そんな不躾な質問を投げつけてきたのは、気だるげに棒のついた飴をなめている先輩だ。



そうそう、彼の名は詩編シアン


金に近いサラサラの髪に、着崩した制服。

光によって変化するブルーに近い瞳。


私の中の非日常を構成する人物だ。




「失礼ですね。友達いないってわかってて聞いてきた質問でしょう?」



そう返すと、先輩はキャンディーを転がしながらクスクス笑った。




ここは屋上。


制服が汚れるのも厭わず、地面に座って私たちは向かい合う。


校庭からは野球のボールをバットで打つ音、サッカーボールを蹴る音が、校舎からは友達同士で話す声や先生の怒鳴り声が絶えず聞こえてくる。


そんな喧騒から少し隔離された空間であるこの屋上で、私と先輩は昼休みになると、度々お昼のために買ったパンやおにぎり、おまけにお菓子までを広げていた。




「友達ほしくないの?」


ほしいと言って簡単に友達ができたら苦労しない。


いや、そもそもほしいのかもわからない。


友達を作って、この平和な日常が崩れるくらいなら・・・



「さあ。」



私が言葉を濁すと、先輩は「そっけないなぁ〜。」と肩をすくめた。


それから、ハッと別の話題を思いついたようで、私に問いかける。



「友達じゃなくてもさ、好きな人とかいないの?」


先輩の急な恋愛話に、私は危うく飲んでいたパックのいちごオレを吹き出しそうになった。



「唐突ですね。」


私が鼻で笑うと、先輩は「そう?」と小首を傾げる。




「恋ってどんな感じですか?」



私は先輩に質問を投げかける。


友達すら作れない私が恋なんてするかっての。



でも、先輩はそんな質問をした私を信じられないような目で見てきた。


そりゃ、見目麗しゅう先輩の経験値とは雲泥の差に決まってる。


頼むからそんな憐れんだ目で見ないで。




「恋っていうのは、その人のことをたくさん知りたいって思ったりとか、一緒にいたいなって思ったりとか。」


そもそも私、他人にはあまり興味ないみたいだからなぁ。



「へえ。」と適当に相槌を打つと、「興味ないね。」って先輩に笑われた。


興味ないことに耳を傾けない私に、先輩は気を悪くする様子はない。





昔、引っ込み思案な私に話しかけてくれた子がいた。


でも、その子の話は正直興味が無くて、適当に相槌を打っていたら、私と話してもつまらないって言われたことがある。


勝手に話しかけてきたのはそっちじゃん。


それでも、つまらないと言われて、傷付いた私もいる。





「先輩は、好きな人いるんですか?」


話の流れでなんとなく先輩に話を振ってみる。


正直あんまり興味ない。



でも、人気者の恋愛事情は学校中の女子たちが喉から手が出るほど欲している情報なのではないだろうか。


こうして晴れた日の昼休み、なぜか数多の女子をそっちのけて、一緒に過ごしている私になら教えてくれるのではって、少しだけ期待した。




「秘密。」


でも、先輩は教えてはくれなかった。



「なんだ。」


少しだけ残念そうなふりをする。

嘘、少しだけ本当に残念だった。



「だって、君あんまり興味ないでしょ?」


呆気なくばれた。


本日二回目。

先輩に興味ないことを指摘されてしまう。


興味があったのは、先輩の恋愛話ではなく、私にその価値ある秘密を教えてくれるかどうかってことだけ。



「はい。」


素直に頷くと先輩は少しだけ拗ねたように「むう。」と唇を尖らせる。





「じゃあ、今度はちゃんと興味がある質問です。先輩は、どうして私なんかと一緒にいるんですか?」



スクールカーストの頂点と底辺。

月とすっぽんだ。


こんな私といて、退屈には思わないのだろうか。


詩編先輩は、たくさんの友達がいるはずなのに。

なぜ、その人たちと過ごさないのだろうか。




「見つけたから。」



先輩がぼそっと呟いた。



「え?」



「あの日、君を見つけたから一緒にいるんだよ。」





質問の答えの意味は全然解らなかったけど、先輩は私が興味あることに対しては誠実に答えてくれるのを私は知っている。


だから私は、先輩と出会った日のことを思い出した。



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