第3話 そしてお礼をいただきました

 あっという間に着きました。王都が見える山ですよね。どういう脚力してるんでしょうね。普通なら1時間かかるはずなんですが。良かった。下ろしてくれました。高床式の建物がありますね。別荘だったのですか。なるほど。いやなるほどじゃないですね。どういうお考えでしょう。シェラ将軍は。


「入れよ」

「お邪魔します」


 読めませんね。かと言って、断ったらどうなるのかは分かっておりますので、素直に従うしかありません。木で出来た家具が置かれてますね。机と椅子。棚。経験上見たら、高級品化は分かりますが、思ったより質素ですね。おや。机の上に置かれているのは。


「茶と菓子ぐらいしか用意出来ないが味わってくれ」


 下戸かザルかなんて分かりませんしね。その辺りを考慮しての選択でしょう。さり気なく高そうな感じの。しばらく菓子なんて口にしてませんし。座っていただきます。美味です。ほどよく甘い。ねっとりとした舌ざわりと生地がたまりません。茶と相性いいですし。従者がやるのが一般的ですが……人いませんね。感知できるものを使っても私と将軍様だけですし。え。まさか茶を用意したのって。こういった職種に就いている方は教養があるのですね。学習しました。


「ふっ」


 笑いましたね。へ。頭を撫でてきました!?


「改めて言おう。感謝をする」


 感謝をされるようなことをした記憶はございません。そりゃあの事件の時、近くにはおりましたが。


「あの何故そのようなことをおっしゃるのか教えて頂けると助かるのですが」

「報せてくれたからだ」


 どういう意味でしょうか。直接誰かに伝えた覚えなんて。ああ。そうか。そういうことでしたか。


「あの彼はあなた直属の者だったのですね」


 本当に宴会が行われている近くで仕事をしておりました。確か女性の方からのご所望で、書物を運んでいた時ですね。下品な男の声と割れる音と倒れる音。明らかに変だと感じ、大事な書物を置いて、こっそりと見ました。失礼のないように気配と音と姿を消して。

中を見ました。王らしき方が倒れ、周辺にいた人達はゲラゲラと笑っていました。異常だと感じた私は誰かに伝えようと必死に走って。そのお陰で記憶があやふやなんですけどね。本来の仕事に戻って、急いで宴会の場に近づいてみたら、丁度将軍様が到着しておりました。刺客を倒したとこでしたね。どうやって知ったのだろうと思っていましたが、納得しました。


「ああ。あれは俺の部下だ。怪しい動きをしていたから潜入させていた。結局、先代の王を守れなかったが」


 今も悔いているのですね。先代の王を守れなかったことに。それは事実でしょう。ですが先代の王の子を助けてくださったのもまた事実なのです。


「でもあなたはルーワン様を守ることが出来たじゃないですか」

「それもそうだな。そろそろ行くとしよう」


 そうでした。将軍様はお忙しい。そこまで長く滞在は出来ないのでした。帰りもやはり姫様抱っこになりながら、王都に戻りました。視線が痛いのは……しょうがないです。


「ニャット。語り部、頑張れよ」


 そう言って、将軍様はどこかに行きました。あの後は頑張ろうとかそういう思いを馳せるどころじゃなかったですね。


「ねえ何したの?」

「将軍様とどこに!?」


 周りの人に聞かれたので、全速力で逃げまくりました。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

語り部と将軍様 いちのさつき @satuki1

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ