天使のマジシャン

水野 文

第1話 天使のマジシャン

 夕暮れの河沿いの野道で小さな女の子が一人泣いていた。道に迷ったのか?それとも転んだのだろうか?少女はその場で泣いていた。


「どうしたの?」


 少女が声のする方に顔を上げると、少女の前には同じ歳ぐらいの男の子が一人立っていた。その少年は白いタキシードに黒の蝶ネクタイという少し変わった服装をしていた。少女は目を潤ませ、頬に涙をつたわらせて少年を見た。少年はにっこり微笑むとパーにした右手をサッと握って、その手を少女の目の前にもってきた。少年がその手を指一本ずつひろげていくと、その手から一枚の白いハンカチが現れた。


「どうぞ」


 少年はハンカチを少女に手渡すと、少女は不思議そうにハンカチを受け取った。次に少年は少女に両の手のひらを見せると同じようにサッと握ってすぐに両手から一本ずつかわいらしい花を取りだして少女に渡した。少女の目からは涙が消えていた。少年はさらに二匹の鳩を取りだし空に羽ばたかせた。少女の顔は笑顔に変わっていた。


 それを見てとると少年は地面の石を三つばかり拾い上げ、それを手のひらに乗せて二回撫でた。少年は少女に空を見上げるように指をさすと、石を思いっきり空に放り投げた。石は天高く舞い上がるとやがて三つの美しく輝く星になった。その星を見上げる少女の目は星に負けないくらい輝いていた。


「さあ、もう家に帰ったほうがいいよ」


 少年は優しく少女に言った。少女は少年の方に顔を向けると大きくうなずいてハンカチと花を返そうとした。


「君にあげるよ。大切にしてね」


 少年は微笑みながらそう言うと軽く手を振った。少女は深くおじぎをして、何度も少年の方を振り返りながら帰っていった。  

やがて少女が見えなくなると少年の後ろには一人の紳士が立っていた。少年はその紳士を見ると少し恥ずかしそうに笑った。


「どうだった?」


 紳士は少年の肩を抱いて言った。


「僕、あの子が好きだよ。これからも守っていきたいよ・・・・・・だから僕、生まれるよ。もう迷わない。この世界に生まれるよ」


 少年は紳士の顔を見上げて微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天使のマジシャン 水野 文 @ein4611

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説