第4話「乙女ゲームとか言われても、全く知らないんですけどー!?」

≪救世の乙女と聖なるパートナー ~愛の力で魔王女退治!~≫


前世で発売されていたそのゲームは、通称『救聖』と呼ばれてかなりの人気を誇っていた。

いわゆる乙女ゲームと呼ばれる女性向け恋愛シミュレーションゲームで、

王立魔法学校に入学した主人公のヒロインが何人もの男性攻略キャラのヒーロー達と出会い、

様々な選択肢やイベントで好感度を高め、最終的に攻略キャラと結ばれるのを目指すゲームだった。


悪役令嬢ロザリアは主にその恋愛パートに登場し、様々な妨害で主人公と攻略キャラの好感度を下げたりする、いわばお邪魔キャラとして登場する。


だがこのゲームが特徴的なのは独特なゲームシステムで、基本は会話の選択肢だけで進むごく普通の恋愛シミュレーションゲームなのだが、

魔法学校に入学するだけあって、きちんと自キャラを育成したり資金を貯めて学校の購買部や街の武器屋などで武器防具を整えておく必要があった。


何故ならば普段は会話シーンのみの恋愛ゲームでありながら、一歩学園等を出ると、突然某ドラ〇エ風のコマンド式RPGになるのである。


ミニキャラによる画面の移動中に突如始まる敵との戦闘やおつかいイベントの戦闘、

果てはラスボスとの戦闘に負けるとその時点での攻略キャラとの好感度を一切無視して即ゲームオーバーになり、条件によってはその場でゲーム進行不能になり詰んでしまうという一筋縄ではいかないものだった。


当然、やり慣れない独特過ぎるゲーム内容に、

「乙女ゲームで破滅エンドでもないのにゲームオーバーって何よー!?」

「RPGと恋愛ゲームを混ぜるなー!」

などの悲鳴を上げる女の子達が続出するのだが、

このゲームの最大の売りは戦闘シーン等での攻略キャラの行動やセリフが恋愛ゲームパートの好感度の状態によって変わる、というものだった。


ミニキャラによる画面の移動中に雑談ボタンを押した時のヒーロー達との雑談内容が変わるのを始め、

戦闘中に様々な言葉を人気声優のイケボで『大丈夫か?』『無理をするな、お前の背中は俺がまもる!』等の、好感度に応じたセリフを突然かけられたり、

好感度がある程度上がると何も指示しなくても攻略キャラが一定の確率で自キャラを敵の攻撃から護ってもらえるのだが、

複数もしくは全員の好感度を上げたハーレム状態のパーティ構成だと、敵からの攻撃を攻略キャラ全員が

『お前をまもるのは俺だけだ!』『抜け駆けは許さない! 僕があなたをまもる!』『みんなー! 目的忘れないで―!』と、かわるがわる身をていしてヒロインをかばう大騒ぎになる。


各攻略キャラ独自の特殊攻撃は好感度を上げれば上げるほど威力が増し、舞い散る花びらの数も増し、演出も派手に美麗になってゆき、

果ては攻略キャラとの好感度がある程度を越えると使用できる強力な2人同時攻撃は、ヒロインとのキスシーン寸前のアニメーションカットが入るうえ、

ハーレム状態だとパーティ全員での絢爛豪華けんらんごうかな映像の全員同時攻撃もある等、攻略キャラとの絆が深まっていくのを視覚・聴覚的に実感できるのだった。


戦闘のみならず、ミニキャラが歩く画面上には街の内外に様々な名所や飲食店も配置されており、ゲーム内の資金が許す限り攻略キャラとの疑似デートを体験できたりもした。

当然、好感度によってそれぞれの場所での行動や発言が変わる。セリフはAIによる自動生成によりパターンが無限に変わるので推しキャラだけを連れて一日中フィールドの街中を徘徊はいかいするプレイヤーもいた。


なので「戦闘シーンやフィールドをぶらぶらしてるだけで、推しキャラと延々いちゃいちゃできる~❤」と、

戦闘自体は好感度の上下に影響しないのをいい事に、皆恋愛ゲームパートそっちのけでひたすら戦闘を繰り返すので自然と自キャラのレベルが上がってしまい、戦闘パートは慣れればむしろ簡単だと好評だった。

そしてよりによって戦闘敗北によるゲームオーバーのシーンであっても、

攻略キャラがヒロインをかばって死ぬアニメーションカットが挿入されたり、

死にゆくヒロインを攻略キャラが、例えば普段は冷徹でクールなキャラが「やめろ……死ぬな!死なないでくれ!お願いだ!」と涙ながらに懇願したりなどの、

普段は見せない表情や言動で悲しむムービーがわざわざ好感度に応じて挿入され、ちょっとしたバッドエンドを体験できた。


全滅による敗北を含む戦闘終了後やイベントバトル終了後は美麗なスチル画像が表示されるので、皆血眼ちまなこになってそれを収集していた、

わざわざスチル画像の為だけにゲームオーバーになったりもしていたのだ。


むしろレベルが上がり過ぎるとゲームオーバーになるのが困難になるので、それ用のレベル調整まで研究し尽され、

~番のムービーを埋めるには、レベルを~までに抑え、~との戦闘で全滅する。等の細かい情報のやりとりがSNSで活発に行われていた。


それだけならばちょっとマニア好みなゲームですね、で済んでいたのだが、

ある日特殊な選択・パラメーターでヒロインを育成すると『百合ルート』なる裏ルートに突入し、

女性キャラであるヒロインがゲーム中の女性キャラを攻略できるのが発見された事で状況が一変した、

多数の男性プレイヤーや、一部の女性プレイヤーが飛びついた事で爆発的なヒットとなったのだ。


この事態に怒ったのが、初期からプレイしていた女性プレイヤーやごく一部の男性プレイヤーであった、

「乙女ゲームを余計な要素で汚すな! 『百合ルート』は邪道!」「いや『百合ルート』に入らなければ良いだけだろ! ゲームは自由だ!」「こういう時だけ乙女ゲーム扱いするな!」「ついでに男の子どうしのも出して!」

というジャンルをめぐる血みどろの争いが勃発し、


一部のプレイヤーが、メーカーに『百合ルート』をアップデートで削除するか『百合ルート』を削除して再発売・交換を要求するなどの署名を集めたり、不買運動にまで発展する大騒ぎとなった。


これに対してはメーカーが、女性キャラのみの百合バージョンや、一部で要望のあった男性キャラのみのBLバージョンをスピンオフとして発売する事で一応の鎮静ちんせい化をみた、といういわくつきのゲームなのである。


尚、主人公が男性で、多数の女性キャラを攻略するという、いわゆる美少女ゲームのバージョンは発売されなかったが、あまりの騒動で皆殺気立っていて要望が表面化せず、特に苦情は出なかった。


『ええええ……よりによってそんな濃い内容のゲームに転生しちゃったの……?』


次回 第5話「お着換え完了よ!さぁ出陣!」

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