第3話「世界の声……うんよし、わからん!」

「……つまり、あなたは”世界の声”という存在で、世界そのものを説明する役割を持っている存在だ、と?」


異世界転生したと気づいた瞬間から前世の記憶や性格が混在した状態になったといっても、

地の文から”世界の声”の概念を説明されたところで、前世でも今世でも聞いた事が無い現象なのでどうにか納得するも、心はまだまだ困惑していた。


「確かに、あなたの言うように今の私は前世と混ぜ混ぜされたような感じね。貴族らしく……うん、ふるまおうと思えばふるまえるわ」

別に声に出して話しかけなくても通じるのだが、ロザリアはつい口にしてしまうのだった。

『え? 口に出さなくてもいいの? 早く言って……、って実際には聞こえてないのか。アデルは特に反応してなかったもんね、危なっ! 不審者になる所だった!』

誰もいない虚空こくうに話しかける自分をうっかり想像してしまい、ほっと胸をなでおろす。


『ってか、これ凄い便利!? ネットでググる感じでいろんな事を勝手に説明してくれるわけだし、下手したら世界のありとあらゆる事を説明してもらえる系!?』


気を取り直して、自分の能力の有効性に胸を躍らせるロザリアだったが、そうそう上手くいかないのが世の中である。

そもそも地の文は”読者が知るべき事を、しかるべき時に説明する”のが役割であって、ストーリーから外れたり、ネタバレのようなその場の空気を読まない事は説明できない。


『えー? そーなの? ちょっとー、使い勝手悪くない? 空気読めるってのはすごい良いけどさー』


更に、ロザリアが知るべきでない事やロザリアがその場にいない時の事も説明するわけにはいかないので、別に万能ではないのである。

あくまで異世界転生の際に与えられた”チート”として、地の文を”世界の声”として聞けるようになっただけなのだった。


『うーん……? まぁ、異世界転生ってそういうもんよね! 気にしても仕方ないか!』

転生時に与えられるチートを”そういうもん”、と、豪快に言い放つロザリア、前世のわりと適当な性格が混ざったとはいえ、さすがは”悪役令嬢ロザリア”である。

『え? 悪役令嬢? 何それ?』


「お嬢様、お待たせしました。こちらのドレスでいかがですか?」

声がして振り返ると、ドレスを持ったアデルが小走りに戻ってきていた。

アデルがおずおずと差し出してきたドレスは明るい萌黄もえぎ色で、精緻せいちな花やつる刺繍ししゅうを施され、レースがふんだんに使われているものだった、えりぐりはあまり大きくはなく、首元の肌が見える部分はレースで覆われている、かなりつつまましいデザインであった。


「お嬢様は普段は赤い色を好まれておりましたが、屋敷の皆に会われるという事で、こちらの色でどうでしょうか?」

たしかに普段好んで着ていた赤よりは、こちらの落ち着いた色の方が相手に無駄な威圧感を与えずに済むだろう。なんといっても謝罪行脚あんぎゃなのだから。

そもそも自分でもこんな見覚えの無いドレスをよく見つけてきたものだ、探すのに時間がかかったはずである。

「ありがとう、これで良いわ。アデルは衣装の趣味が良いのね、安心して任せられるわ」

ロザリアの賞賛にほほを染めるアデルに手伝ってもらいながら、部屋着を脱いでドレスに着替え、身支度の仕上げの為に改めてドレッサーに向かう。


髪をとかしなおして結い上げてもらいながら、改めて自分の顔をまじまじと見なおしてみる。

『いやー、やっぱすごい美少女だわー、我ながらアガるわー。さっきのコルセットでさらに胸のでかさが強調されたし』

コルセットの締め上げはアデルの力なので割とゆるめだったものの、それでも「ぐえっ」とちょっと声が出てしまった。

スカートの中のパニエも膨らみの少ない物が選ばれたので、かなりおとなしめの印象にはなるはずだが、それでも身体の凹凸は強調され、より存在感を増すものになっていた。


『まぁせっかくこれだけの身体だしー? アピっていかないとね! 屋敷の人たちに謝って回るとはいえ、あまりに下手に出ちゃうとかえって不審に思われるかもだしー』

ちなみに、”アピる”とは”アピールする”、の略で、強調する、主張していく等の意味で使われる。『いちいち解説されると話しにくいわね』


『それにてもこの子のセンスマジ良き❤ 前世思い出す前は、やたらにキツめの化粧とか衣装を要求してた、ような……? マジサーセン、いえ、ごめんなさい……』

以前は歳の若さや威厳いげんの無さをごまかそうと、目じりをきつくしたりなどの化粧や、赤等の派手なドレスで必死に自分を強く見せようとしていたものだ。

『ええ……、以前のウチって最低過ぎない? 周りにイキリ散らかして迷惑かけて、ってまるで何かの悪役……ん? 悪役? 令嬢?』


先程も地の文に言われた単語を思い出し、ロザリアは一つの思い当たるふしにたどり着く。

『悪役令嬢……、悪役令嬢ロザリア……、あああああああ! この子って、乙女ゲームのキャラじゃん!』

目の前の鏡に写る姿とは多少違うが、以前の姿を思い返したロザリアは自分が前世で家庭用ゲームで発売されていたいわゆる乙女ゲームの

≪救世の乙女と聖なるパートナー ~愛の力で魔王女退治!~≫の登場人物である事を思い出したのだった。


『うわー! マジかー。ちょっと待って、ウチこのゲーム……、全く知らないんですけど!?』


次回 第4話「乙女ゲームとか言われても、全く知らないんですけどー!?」

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