第32話 悪党の本質

 タキのブラックドラゴンに、オレはバイクを突撃させる。

 ラファロだったか……もうツッコまねえからな。


「真正面からの勝負かいな! 漢やんけ! せやけど、ナメすぎや!」


 ドラゴンの爪が、オレのシールドをかすめた。


 それだけで、ミスリル製のシールドに傷がつく。


「竜人族の炎すら弾く魔法の鉱石でも、ダメージが通るのかよ!?」

「安心したまえ」


 ミスリルのすごさを知るのは、ここからだった。傷を負った場所から、光が。


「傷が、ふさがっていく!」


 魔法石というだけあって、負傷箇所が自動的に修復されていく。


「ただし、使い手の魔力を大量に消費するけどね」


 戦闘中は、なるべく当たらないようにしたほうがよさそうだ。


「お前さんは、オレだけを狙っているって言ったな? どういう意味だ!?」

「あんたも飢えてんのやろ? こういうヒーロー的な活動に。ごっこやない。本物の」


 タキからの問いかけに、オレは何も言い返さない。言い返せなかった。


「この世界は、よく読んだ小説と同じや。『読者がイメージしやすいような』中世風の風景ばかりが広がっとる。敵も、『現実の街にいる、その辺のチンピラ』みたいなヤツラばかりやんけ。お前も見てきたやろうが。違うんか?」


 この世界はくだらないと。だから自分が変えなくては、とタキは主張してくる。


 タキは、自身こそ悪の役割にふさわしいと。


「……ちょっと前なら、お前に賛同していただろうな」


 オレだって、ヒーローに憧れていた。


 しかし実際の辛さを前にして、オレは戸惑っている。


 たしかにタキなら、オレの乾いた心を満たしてくれるに違いない。


 こいつも、オレと同じだ。ただの特撮好きで、ヒーロー物が好きで。オレと違って、こいつは悪役の方に惹かれているが。


 だが、タキの行動さえオレの望んでいる世界ではないと、今ならわかる。


「マーゴットとかいったな? お前はどうなんだ?」

「人類の支配は、我々魔族の共通目的ですわ。経緯はどうあれ、目的が達成されればよいのです」


 腰に手を当てながら、マーゴットは堂々と語った。


 なにも考えていないな、コイツは。


「タキに一任しているみたいな、言い草だな?」

「そうとも言いますわ。召喚された者の手綱を引くことが、召喚したものの礼儀。ただ、そのリードに引っ張られるものまた、楽しいのではなくて?」


 好き勝手やらせてやろうって腹か。

 これはこれで、厄介だな。

 めんどくさがりというより、放任主義で快楽主義のようだ。


 自分たちが面白ければ、世界なんてどうでもいいんだろう。


 彼女にとって、戦場は遊び場でしかないんだ。


 一歩間違えると、ウェザーズよりタチが悪くなる危険があった。

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