第17話 闇の科学者、タキ
スーツが、プスンプスンと言い出した。一箇所だけじゃない。あちこちで煙が上がっている。
「お、うお」
オレの身体も、地面へまっ逆ささまに。
「おおおお待て待て待て!」
「エネルギー切れだ。さっきの必殺技で、力を使い果たしたんだよ」
そのまま、オレは地面へと落ちていく。
「待ってろ!」
ニョンゴがオレの背中に取り付いた。魔力を注入している。
「うおっと」
地面スレスレで、どうにか落下は止まった。ふう。
「ん?」
眼の前では、なんともファンタジーらしい様子が展開されている。
「今更ノコノコ来おったか。タキよ」
ウェザーズはまだ、生きていたらしい。
「やまかしいわ。お前のせいで、三分の一が死んだんやぞ。誰が魔王を守護すんねん?」
身体が半分になったウェザーズを見下ろすのは、いつぞやのグラサンだ。
茶色のスーツを来て、ウェザーズを不愉快そうに会話している。
関西弁か。
「フン。自分の身も配下に守らせている段階で、魔王失格よ」
「自分が先陣きって仲間を犠牲にしている段階で、指揮官失格やぞ」
やけにトゲがあるな。
「吾輩は以前から、貴様のような頭でっかちの理屈屋は気に食わなかったのだ」
「奇遇やな。ワシはもとから、お前みたいなイキっとるガキが嫌いなんじゃ。暴力に訴えたらなんでも手に入ると思っている、お前みたいなヤツがや」
仲が悪いなんてレベルではない。お互いを憎み合っている。
タキと呼ばれたグラサンが、オレに気づく。
顔つき、シワの具合からして、同い年くらいか。
「おう。ようやってくれたわ。ワシはプロフェッッサー・タキちゅうもんや。あんたのおかげで、魔王陣営における膿が取れるで」
プロフェッッサー・タキが、グラサンを外した。目元はタレていて、瞳孔になんの感情もない。
「モモチだ。こっちでは、シェリダンと名乗っている」
こちらも、ヘルムを脱ぐ。
こいつには、本名で名乗る必要がある気がした。
「シェリダン……もしかして、タイ・シェリダンから取ったんか?」
やっぱりだ。こいつは。
「ええやんけ、お前。おもろいで」
今までなんの感情もなかった目に、愉快さが浮かぶ。
「お前も、日本人か?」
「せや。魔王陣営に知恵を買われたんや」
現魔王である、ジェランの力で呼ばれたらしい。
「どけ、タキとやら。コイツを殺さなければならない」
「ひっこんどけ。魔王の軍勢も下がらせとる。ライコネンも王都も無事や。あんたらに用事はないはずやで」
「そうはいかん。とどめを刺す」
「ワシらに任しとき」
オレとタキがしゃべっているとまたウェザーズがわめき出す。
「貴様ら、我という偉大なる存在がいながら、雑談をするでない!」
「やかましいやっちゃで」
ちらっと一瞥しただけで、再びオレとの会話に戻る。
「モモチ。あんたも日本人やったら、知ってるやろ? ゼークトの組織論の話」
「……ああ」
有能な働き者は、参謀にしろ。有能な怠け者は、後方で指揮官に。無能な怠け者は、前線に出せ。
「正解や」
タキが瞳に、薄暗い感情をのぞかせた。
「おのれ貴様ら! 吾輩を無視するでない!」
なおも、ウェザーズはわめいている。
「で、無能な働き者は」
「今すぐ殺せ」
「お見事」
同時に、タキの後ろで落雷が起きた。
真後ろで大爆発が起きたというのに、タキは肩をパンパンと払うだけで動じない。
「なんだ?」
オレは、口に入った砂を吐き出す。
土煙が晴れていき、ようやく何が起きたのかが見えてきた。
ジーンが、ウェザーズのコメカミを槍で貫いている。
ウェザーズは今度こそ、死んだらしい。
「勝つことが正義、一番であることが正義やと、いつかこないになる」
タキは、ウェザーズの角を拾う。
ジーンは、動けない。タキが実力者であると感じているのか、力を使い果たしたのか。
「娯楽に飢えとったんや。ゴーレムづくりにも飽きたところやで」
「持ち帰るのか。結局生き返らせると?」
「冗談やない。こんなんのクローンがぎょうさんおったら、世界中がスラムになってまう」
角を担ぎながら、タキはオレに語りかけてくる。
「今日は退く。せやけど次からは、ワシが相手や」
そう言い残し、タキが一瞬で消えた。
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