第12話 竜胆一家、家を買う
先日の戦闘から一夜明けて、小国ライコネンはそれなりに活気づいている。奪還されたばかりなので、まだ完全とは言わないが。
「どうだ、街は?」
「こんな賑やかなところは、初めてです!」
里しか知らないレクシーは、活気づく街に興味津々である。
「おかえりなさいませ」
やはり、人の数だけが少ない。人だけ追い払って、魔物たちで活用するつもりだったようだ。
「王都を攻める際の、拠点にするつもりだったんだろうね」
「その線が妥当か」
ニョンゴの推測に、オレもうなずく。
ともかく、街は回復しつつあった。フローレンス姫とジーンの元へ急ごう。
姫はジーンと共に、負傷者の治療を行っていた。
何も言わずに、オレたちも手伝う。
「私もお手伝いします」
レクシーもケガ人に魔法で治癒を行い、炊き出し作りにも参加する。
「大丈夫だ、みんな。レクシーも、気持ちだけ頂いておくよ」
「よろしいのですか、ジーン様?」
「大変なのは、お互い様だ。モモチと一緒に、街を回ってらっしゃい」
「ありがとうございます」
何かを察したジーンが、オレに顔を向けた。
「用事があってきたんだろ? 話してくれ」
「ああ。実は」
さっそく、事情を話す。
「竜胆の騎士様がこちらに居を構えなさるのは、大歓迎ですわ。商業ギルドに話を通しておきます。ご要望は?」
オレがこっちに移住すると聞いて、フローレンスは喜ぶ。
「小さくていい。できれば目立ちたくないので、隅っこの方に開いている物件があれば」
「承知いたしましたわ」
フローレンスは、ポシェット型のアイテムボックスからまさぐった。そこから、受話器のような杖を取り出す。自身の身分証を、杖のスロット部分に差し込む。ゴールドカードだ。やはり王族は違うな。
電話のように、杖の先端を耳に当てた。この世界の携帯電話か。あれは便利そうだ。
「ええ。そうです。特別いい物件を見繕ってくださいな」
姫が、通話を切る。
「商業ギルドは、こちらから歩いて五分ほどです。身分証を。レクシー様も」
フローレンスに、オレたちは身分証を差し出す。
さっき使っていた受話器の末端を、オレとレクシーの身分証に押し付ける。
ライコネンの紋章が、身分証の左隅で輝いた。なるほど、スタンプにもなると。
「これで正式に、あなた方はこの地の名誉住民です。ある程度は、自由に動けます」
「それはありがたい」
「では、商業ギルドへよろしくお伝え下さいな」
手を振るフローレンスに見送られ、続いて商業ギルドへ。
役員の熟年女性が、土地のある場所まで案内してくれた。
それは、よかったのだが。
「
三階建ての豪華すぎる屋敷を見せられて、オレたちは困惑した。
「派手だな。立地がよすぎる」
これでは、確実にマークされる。いかにも「騎士が住んでいる」と思われてしまう。これでは、レクシーがかわいそうだ。
「買いま……せん」
「では次の物件へ参りましょう」
別のお屋敷を見せてもらった。できれば二階建てでと、要望も伝えておく。
「では、こちらを」
「大きすぎます」
レクシーが即答した。
二軒目は、やたら横に広い屋敷である。ショッピングモールかっての。
「敷地内で野球もできます」とか。いらないから。
しかし……ところどことに、孤児たちがいるなぁ。家族や家を、なくしたのか。
「落ち着かない。買いません。次の物件はどうだ?」
他にも回らせてもらったが、めぼしい場所は見つからない。
「ん?」
オレとレクシーが、一件のボロ屋を目撃した。
といっても、それなりの屋敷だが。貴族の別荘といえばいいか。
各店舗とも近い。買い物には最適だし、どこでも見渡せる。
「そこはもう、二〇年以上も買い手がついていないお屋敷でして! あらまあ!?」
役員おばさんの静止も聞かず、オレたちは屋敷の内部に入った。
「レクシー、どうだ?」
「貴族様の別荘というだけあって、キッチンが使いやすいです。オーブンのあるお家って、いいですね! お庭も広くて、ムギたちも喜んでいます」
レクシーが、お供のムギたちを召喚して走らせる。はしゃぐムギたちを見ながらお料理って、素敵だな。
ここはいいんじゃないか?
「こんないい建物が、どうして売れなかったんだ?」
「経済的に、ライコネンの土地は中途半端でして」
この世界の貴族は、「ライコネンに住むなら、王都へ行くよね」という金銭感覚らしい。二本の若者の一部と、同じ発想だな。その手の人は、大都市以外に関心がない。
「ここに決めた! 買います。いくらだ?」
「ありがとうございます。お代は、フローレンス姫殿下よりいただくことになっております」
オレは、ぶったまげた。だから、お高い屋敷ばっかふっかけてきたのか? なんともいい性格してるぞ、このギルドおばさんは。
しかし、全額出してくれるとはなぁ。
「受け取っておこうよ、モモチ」
「そんな。悪いぜ」
「強い騎士様に、住んでもらいたいのさ」
街を守った恩も、感じているのだろう。そんなの、いいのに。
「よし、買った。家具類はこっちの金で揃える、って伝えといてくれ」
「かしこまりました。お買い上げありがとうございます」
簡単な手続きだけを済ませて、お引っ越し作業を開始する。
「それでは、パワワーッと」
ニョンゴが、ボロ屋に光を当てた。
屋敷の二階が、ラボへと変化する。
「一階は、二人の寝室とか生活空間ね。ワタシは、二階に住まわせてもらう」
「こんなことができるんだな?」
感心しながら、オレとレクシーは一階の掃除を始めた。
「建物のレベルに応じて拡張が可能だから、家さえアレばそこへ空間を作ればいい」
建築物にラボのデータを移せば、その建物がラボになるという。どんなボロ屋であろうと。
「こんなことができるなら、レクシーに片付けさせなくてもよかったのでは?」
「ううん。ラボは汚いままだったよ」
散らかった部屋のデータを転送するから、部屋は当時のままになってしまう。広い家に移動すれば、より汚くなっていた可能性も高い。
「ありがとうね、レクシー」
「いいえ」
後は、食器と家具類だ。
「レクシー、街へ出よう」
オレが言うと、レクシーは少し待ってくれという。
「モモチ、街へお出かけする前に、着替えをしたいです」
「わかった。待ってるよ」
レクシーが、着替えをしまってある寝室へ向かった。
お着替えと言えば、だ。
「話は変わるが、このヨロイのデザインは、どうも浮いている感じがしてならない」
場違い感が、想像以上だ。異世界なんだから、もっと馴染むと思っていたのに。
「異形っぽくありつつ、オートマタっぽくないからいいんじゃないかな?」
「そこは意識した。あまりにも鉄の塊って感じは出したくなかったからな」
西洋甲冑をヒロイックな着色にして、派手にしてみただけなんだが、なんだか白々しいんだよな。モンスターの素材を随所に扱っているのは、いいアイデアだと思うのだが。軽さもいい。
「バイオアーマー風にしたほうが、ウケたかな?」
そっちのほうが、異世界においてはしっくりきそうだ。
「さらに魔物感が増すだけだと思うよ」
「たしかになー。映画でも、そういうキャラいたわー」
「なんだよ急にそんな話をし始めてさ。レクシーの着替えを気に姉妹としているのがバレっバレなんですけどー」
「ち、違うっての!」
ニョンゴにからかわれ、オレは反論した。
「はぐらかさなくていいよ。街でやりたいことがあるんだろ?」
さすがだな。やはり察していたか。
「街を回ったとき、野球場付きの物件を見せてもらったろ? あれを購入したい」
「なんのために?」
「孤児院にしたいんだ」
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