第11話 オークロード 撃破

 不規則に動くムチを相手に、オレは前に出られない。


 オークロードなんて、単細胞だと思っていた。が、腕力に任せたムチの打撃はさすがに強力である。


「ほらほら、さっきまでの威勢はどうした、おい?」


 かろうじて、かわすことはできる。だが、懐に飛び込めない。


「おとなしくムチの餌食になって、豚のような悲鳴をあげるんだよ、おい! ライコネン国王はしぶとかったね、おい!」

「殺したのか?」

「いや。殺したかったけどね。猛将の手下に連れて行かれたよ。ほんとはもっとかわいがってやりたかったがね」


 よかった。まだ生きているのか。


「猛将は強い男が好きなのさ、おい。強いやつと戦って勝ち、すべて奪っていくのが猛将のやり方さ、おい。女も世界も!」


 つまり、猛将もいい性格ではないってわけだ。紳士にあるまじき行為である。


 倒す口実ができた。


「でもてめえはダメだ、おい。てめえは、あたしのおもちゃにする。あたしのムチでズタズタにして、死んでもずっとムチを打ち続けてやるのさ、おい!」

「貴重な情報をありがとうよ。じゃあ、くたばれ」

「なんだと、おい!?」


 オレはムチをものともせず、前進する。


「こいつ、なんだってんだ、おい!? あたしのムチを、耐えるなんておい!?」

「貴様のムチが、軽すぎるだけだ。何を言ってやがる?」


 やはりコイツは、格下としか戦った経験がない。腹筋女子の割に、やたら肌がキレイだと思ったのだ。


 ジーンの身体は、ビキニアーマーの下は隅々までキズだらけだった。回復魔法を施されたとしても、傷跡が残ってしまうのだろう。


 ブチーオもジーンと同じくらいの筋肉量かと思っていたが、技が軽い。ムチの性能だけに頼っている。


「よけられないから、観念したんだね、おい! いい子だ、おい。そのままボロボロになっち……おいいいいい!?」


 ムチが疲労でちぎれた。強靭なスーツに、ムチで攻撃をしすぎたせいであろう。


「スーツより、ムチのほうが先に逝っちまいやがったな?」

「なっ! どういうことだおい!?」


 ズタズタになったムチを握りしめながら、ブチーオはあとずさった。


「来るな、バケモノ。来るなよおい!?」


 玉座につまずいて、転ぶ。


「テメエの負けってこった」


 何も驚くことじゃない。


 オレは、ブチーオの顔面をアイアンクローでつかむ。そのまま立たせた。


「くそ、離せおい!」

「黙れよ」

「ぐえおい!?」


 腹パンをしたら、ブチーオは一撃で黙り込む。度胸のないやつだ。


 アイアンクローで、窓まで連れて行く。


「ま、待て待ておい! 助けてくれ、おい!」

「うるせえ。痛み全開で葬ってやるぜ」


 オレは、火力を全開にした。


 ブチーオの顔面に、火力マックスの光線を浴びせる。


 体内に光線を送り込まれ、オークロードは全身を膨らませた後、爆砕した。


 破裂したブチーオの破片が、地面へと落下していく。


 足跡に振り返ると、フローレンスとジーンだった。城内の敵は、片付いたらしい。


「終わったのか?」


 かけつけたジーンが、窓の下を見下ろす。


「ああ。ただ王様夫妻は、連れて行かれたらしい」


 猛将にさらわれたと聞くと、フローレンスは地面にへたり込む。 


「姫様!」


 ジーンが駆け寄ると、姫は毅然とした顔に戻った。


「まだ生きているなら望みはあります。が、相手が猛将となれば」


 具合が悪そうな顔になりながらも、姫は立ち上がる。


「父も心配ですが、まずは民たちの安全を確保します! 動ける人は、わたくしに続きなさい!」


 フローレンスが、兵隊たちに指示を送った。


 オレはまだ、やることがある。


「ああ、やっぱりいた」


 地下の牢屋に、大量の人々が入れられていた。


「どいてろ」


 指から光線を発し、牢の鍵を壊す。


 住民たちを、助け出した。


 その後は、また消火作業へ戻る。まだ街を燃やす火は消えていない。一刻も早く火を止めて、住民を助けなくては。


 ニョンゴのナビ機能を活用しつつ、生存者を助け出す。


「これで全員か?」

「そうみたいだ」


 助けられた住民たちは、姫が作った炊き出しに群がった。


 姫が対応に追われたちょうどそのタイミングで、他の国からの支援が。


「あとは、もう我々だけで十分だ。休んでいてくれ」


 ジーンに言ってもらえたので、オレも作業を終えることにする。


「そうさせてもらう」


 さすがに、丸一日飛びっぱなしは疲れた。


 レクシーの待つ家に、一旦帰る。


「ニョンゴ、ありがとうな」

「え? ああ、兵士たち治療は終わったよ」


 兵たちの肌を見ると、傷跡も残さずキレイに治っていた。さすが、ニョンゴの仕事は完璧だ。


 だが、オレが言いたいのはそうじゃない。


「あんたがオレに、誰かを救う力をくれた」

「キミにお礼を言われる資格なんて、ワタシにはないよ」


 しばし沈黙した後、ニョンゴが口を開く。


「ワタシは、キミを危険な戦いに巻き込んだ張本人なんだ。最初は、旅をしたかっただけだ。キミを仮初めの身体に入れる予定もなかった」

「でも、人の命を救った」


 オレはここに来て、よかった。いろんな人を助けられたんだなって、自覚できたんだ。


「よせよ。どれだけ力があっても、間違った使い方をしたら、人を傷つけるんだ」

「でも、あんたの力はたしかに、人を守る力だ」

「ありがとうね。魔女魔女って言われて図に乗っていたワタシでも、人の役に立てるんだね」

「そのとおりだ」


 しかし、オレのいた世界の文明を、悪用しているやつがいる。


「例のバイク男だね?」

「ああ。ヤツも、オレと同じ世界から来たんだろう」


 あいつとは、きっとどこかでやり合うことになる気がした。


「でも、あんたのくれたアーマーなら、なんとか倒せそうだ」

「なら安心だね」


 帰宅すると、部屋がすっかりキレイになっていたではないか。まるで違う人の家である。


「うわああ、こんなに広い家だったのか」

「自分でも、信じられないや」


 家主であるニョンゴでさえ、目を丸くした。


「だが、拡張は必要だな」


 人が一人増えたんだ。台所や寝室などは、新しく作り直しになる。なんせ、この家の台所は栄養食しか出てこない装置があるだけ。コンロもなく、レクシーはテーブルに簡易魔力コンロを置いて食事を取っていたという。


「それなんだけど、引っ越そう」

「え?」

「ライコネンとここの行き来は大変だからね。引っ越すことにする。ライコネンなら大きい土地や空き家もあるだろう。そこへ住もう」


 オレは別に構わないが、大丈夫なのか?


「平気さ。この家はマジックボックスに収納が可能なんだ。いつでも研究ができるようにね」

「どうして、ライコネンに行こうと?」

「このままだと、レクシーがずっと一人ぼっちだからだよ」


 召喚獣がいるから平気だと思う。けど、誰もいないなら遠くの街まで買い物に行く必要がある。


 街に引っ越せば、必要なものは手に入ろう。人もいるから、交流だって可能だ。


 そう考えて、ニョンゴは隠居生活を辞める決意をしたという。


「それに、ライコネンには目を光らせておきたいんだよね」


 わかる。また襲撃が来ないとも限らない。


「フローレンス姫とのパイプも、維持しておきたい。

「オレは引っ越しには賛成だ。交流は大事だからな。けど、レクシーはどうだ?」


 故郷であるエルフの里からは、結構離れてしまう。いいのだろうか?


「私は、嫁いだ身です。主人の住まう場所が、私の居場所です。ご心配なく」


 大丈夫そうだ。


「レクシー、離れていて」

「はい」


 レクシーが、召喚獣たちをしまって外へ。


 同じく外へ出たニョンゴが、ラボに光線を当てた。


 一瞬で、小さい建物が消える。


「ラボが、なくなった」

「次は、ライコネンで物件を探そう」


 オレはレクシーを連れて、ライコネンへ。

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