第5話 嫁ゲット

「悪い。大丈夫か?」

「はい。なんとか」


 でも、ケガをしていてはいけない。オレは、レクシーを回復の泉に浸す。


「足元が見えないから、気をつけろ」


 両手を持ちながら、そっと泉の中へ。


「ありがとうございます」


 レクシーは、落ち着いたようだ。さっきまで泣きはらしていたらしい。腫れた目元が、泉の力で回復していく。


「どうして、こんなところに?」

「お背中を流して差し上げようと」

「長老の、じいさんの指示か?」


 レクシーは、首をブンブン振った。


「私からの感謝の印です」

「なにも、こんなことをしなくても」

「ハダカに慣れておきたいんです! お互いの!」


 どうやら、結婚話はマジみたいだな。


 相手は乗り気だ。それを断るとなっては。


「じゃあ、お願いします」

「はい。喜んで」


 背中を流すと言っても、回復の泉自体に石けんの機能がある。タオルで軽く拭う程度に過ぎない。それでも、レクシーの手付きにオレはゾクゾクした。


「何をビビってるんだい? 相手はキミと一緒になるのを、むしろOKしているよ?」

「多分、見た目からだ」


 幼女っぽいから、どうしても足踏みしてしまう。


「心配ないよ。彼女は一八歳だ。従来なら、行き遅れているくらいさ」


 そうなのか?


「はい。治癒・補助魔法の修練などに没頭してしまって、気がつけば婚期を逃していました。アカデミーでは、色々と私を狙っている男子生徒がいたようですが」


 何ひとつ青春らしい日々を送ろうとせず、レクシー女史はひたすら研究に没頭していた。


「なんでまた?」

竜胆の魔女ソーマタージ・オブ・ジェンシャンのは、私の憧れなのです。女性ながら社会進出して、数々の偉業を成し遂げました。魔族の侵攻をこれまで食い止められているのも、魔女様のおかげなのです」


 なるほどね。こいつは、人々の役に立っていたと。


「でも、魔女様はお亡くなりになり、我々の希望は途絶えました。それで魔族は息を吹き返し、私の両親は……」


 タオルでオレの背中を拭う手が、止まった。


「辛いな」

「でも、あなたがいます」


 オレは、レクシーの手をつかむ。


「じゃあ、ワタシは席を外すよ。素材から、武器の構築をしておく」

「頼む」


 ニョンゴが消えていった。


 照れくさいから見ていてくれ、なんて言わない。ちゃんと、レクシーに向き合わないと。


「あの、け――」

「結婚してください」


 オレの方から、前を向いてプロポーズをする。前をむくのは照れくさかったが、そうも言ってられない。


「え? ホントに?」


 自分から告げようとしたのだろう。レクシーが戸惑っている。


「ホントだ。一緒になろう、レクシーちゃん。あんたさえよかったらだけど。繁殖のためとか、そう言う事務的な結婚じゃなく。もっと夫婦らしいことを、たくさんしようぜ。楽しいぞ、きっと」


 思えば、この子は家族を失ったばかりだ。祖父である長老がいると言えど、寂しい思いをしているに違いない。支えが必要だろう。


「ありがとうございます。ありが、とう」


 レクシーが、オレの胸で泣き崩れる。

 こうしてオレは、元の世界で築けなかった家庭をもつことになった。 




 泉から上がって、二人で着替える。


 長老に連れられて、里の冒険者ギルドへ。


「忙しい所、すまん。この方の冒険者登録を」

「かしこまりました」


 受付嬢のポニテ女子エルフによって、冒険者カードが作られる。


「名前はモモチで登録。二つ名なんて項目があるのか」


 二つ名とは、「世間でどう呼ばれたいか」を書いておく項目だ。オレのように、匿名で活動したいヤツラは、二つ名を相手に呼ばせるんだとか。


「こっちは……シェリダンの方にしておくか」


 職業は、騎士として登録した。親しい人とだけ、モモチと名乗ろう。身を隠すため、フルフェイスのヨロイは常に身につけておくか。


 冒険者登録すればステータスがセーブされる、ってわけじゃない。ただ、こういうのは気持ちの問題だ。異世界に来たら、冒険者登録しないとね。


「配偶者名、配偶者……」


 うーん、手が震える。わかっていても、緊張するもんだな。


「さっさと書けよっ、モモチ」

「でもなあ……あ」


 業を煮やしたのか、レクシーがオレから用紙をぶんどった。さささっと、自分の名前を記入する。


「シェリダンことモモチ様と、奥様のレクシー様ですね。承りました。おめでとうございます」

「ど、どどどどうも」


 受付の人に歓迎されて、レクシーはどもった。


 さっきは勇ましかったのに、レクシーはすぐに縮こまっている。どっちが本当のキミなんだ?


「あっそうか。結婚したんだから、先に役所へ行かなきゃ」

「大丈夫ですよ。こちらでは、住民登録の手続きも兼ねていますから」


 受付さんが、そう教えてくれる。


 なるほど。ならとっと書いて正解だったのか。


「あと、街に出て必要なものを買いたい。とはいえ……」


 ここはもう、街としては機能していない。復興には時間がかかるだろう。


 ここより大きな街に出て、アイテム系を揃えようかと。こっちの武器・防具のデザインも見ておきたい。参考になればいいが。


「ですが街は、モンスターに襲われています」

「じゃあ、助けよう」


 休みなしだな。でもいいや。それくらいが、ちょうどいい。


 だが、その前に。


「えっと、レクシー。喪に服しておくか?」


 さすがに結婚していきなり新居へ、なんてわけにはいかない。


「両親を亡くしたんだ。お別れは伝えておいたほうが」


 新しい家族を招くんだから、部屋も片付けておきたかった。あの館は作業スペースばかりで、生活感もなかったし。


「ありがとうございます。では、葬儀だけさせてください。一日で済ませます」 

「わかった。日を改めて、迎えに行く」


 諸々の準備をするために、オレは魔女のラボへ一度帰ることにした。

 ついでに、森周辺のモンスターも蹴散らす。これで、少しは安心できるだろう。素材も手に入るし。

 あらかじめ、ギルドで初心者向け依頼も受けておいた。


「うーんと、薬草採取とハチ退治と、イノシシ撃退は……完了したな。これでランクアップと。


 申請なしでランクアップするシステムは、いいな。

 同時に、犯罪もすぐにバレるらしいが。


 ラボに帰還、っと!


「ニョンゴ、最適化は完了したか?」

「バッチリ! あとは、ビジュアルを決めるだけだ。それで、キミにとっておきのスキルを授けよう。さっき泉で席を外したとき、開発しておいた!」


 これからさらに強くなるってか? オーバーキルがすぎるぜ。


「その名も、ドドーン! 【フルモデルチェンジ】だ!」

「なんの機能があるんだ、それ?」

「アイテムのビジュアルを、キミの好きなように変更できるスキルだよっ!」


 そのスキルは、「アイテムを、オレの好きな見た目に変換できる」機能らしい。


「変わるのは見た目だけ! 性能はまったく変わらないから安心してね」


 物理法則で多少は軌道や操作性は変わるかもしれないが、基本的には元の数値を維持しているという。


 助かる。やはり見た目第一だからな。


 実際、オレはレクシーとの結婚をためらった。彼女はオレから見て、小学高学年くらいにしか見えない。やはり幼い見た目で、「YESロリ・NOタッチ」の精神が湧き上がってしまうのだ。


「ただし、アイテムだけだから、生きた人間とかの見た目は変えられないよ」

「わかった。ではさっそく、ヨロイの見た目を変えようじゃないか」

「そんなに、気に食わないんだね?」


 一生、着るものだからな。ビジュアルには、こだわりたいのだ。


 各素材を吟味しながら、ヨロイをヒロイックなパワードスーツへと仕上げていく。


「あと、武器も追加しておいたよ。近接武器だ」


 動物的デザインの武器が、ニョンゴの足元から降ってきた。


「刀か」


 握りが、ドラゴンの指でできている。爪を削って作ったのか。


「うーん、機能は実用的だな。仰々しい見た目もなかなかだが、今回は却下だ」


 これでは、悪者だしな。


「よし。他の素材を集めに街へ行くぞ!」

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