第二章 猛将と、闇の博士

第6話 狩りの途中で姫様を保護

「ヒャハハハー! 素材よこせやーっ!」


 目的地の街へ向かうまで、俺は魔物を狩り続けた。刀の試し切りをするためである。ブロードソードでズドーンとぶった切るかとも思ったのだが、スマートさもほしい。ど派手な技は、ビームで済ませようかと。


「ヒャーッ!」


 遠くにいる鹿型モンスターを、ノーモーションの射撃で撃ち抜く。


 閃光も、手からではなく銃から放つことにした。


 やはりあの閃光を撃つと、スーツ内に熱がこもってしまう。


 なので、制御面と火器類との構成は別にしようとなった。


 ニョンゴに光線銃のロマンを解き、ハンドキャノンを作成する。結果、魔法の閃光を撃ち出す銃が完成した。砲身となる鉄板に破壊光線の術式を彫って、銃の砲塔にするためねじったのだ。スーツで発射できるビームは、最低限にとどめた。


「うん、いい感じだな」


 鹿の角をいただく。


「これは、何に使えそうだ?」

「装甲か制御系だね。硬いから、武器にもできるよ」


 とはいえ、殴打系の武器ってあまり使わないんだよな。


「防御用パーツに回してくれ。スーツをなるべく軽くしたい」

「ラジャー。しかし、随分と見た目をいじってくれたね?」


 パワードスーツのデザインは、一応ヒロイックにしてある。しかし、気分はすっかり山賊だ。俺には魔物たちが、パワードスーツの素材にしか映っていない。どのような性能が出るのか、ワクワクが止まらなかった。


「これでは、どっちが魔物だかわからない」

「いいんだ。魔物たちが、俺を恐れてくれたら」


 魔物のヘイトを俺に集めれば、街への被害が多少は減るのでは、と期待している。


「おっ、スライムだ」


 率先して、俺はスライムを狩りまくった。両手いっぱいに、ネバネバ粘液を集める。


「そんなにスライムを集めてどうする気だい?」

「熱処理に使う」


 ニョンゴが集めた素材で、少々熱問題は解決した。やはり、インナーの製造は急務だったのである。しかし、まだクッション性に難があった。


「それで、スーツの中にスライムを塗り込んで」


 俺は、スーツの腕部分を取り外す。内側に、スライムの粘液を塗り込んだ。


「ダメダメ。そんなことをしたら」

「やってみないと、わからんだろうが」


 ニョンゴが止めるのも聞かず、俺はスライムをヌリヌリ。


「これでよしと。あとは腕にはめて……うおっ!?」


 俺の体力が、ガクンと減った。


「だから言ったじゃないか。スライムは魔力を食うんだ。死んだと思っても、かくさえ生き残っていたらまだ動けるんだ。そこへおいしそうな魔力が転がってきたら、たちまち食い尽くしてしまうよ」

「それはいかんな」


 ニョンゴに指摘されて、俺はスーツの内側を燃やす。スライムがようやく溶け落ちていった。


「スライムを使うなら、ちゃんとシメておかないと」

「わかった」


 スライムの核を破壊し、動かなくしてからスーツの内部へ。


「いいんじゃないかな? ベトベトはしない?」

「なんか、不思議な感触だ。人工筋肉って、こんな感じなんだろうな」

「スーツに浸透させておくよ」


 しばらく、ニョンゴにスーツの調節を任せた。


 その間に、モンスターを次々と狩っていく。


「しかし、数が多いな。オークやゴブリンばかりだが」

「巨大ムカデとかもいたね。すぐに焼いちゃったけど」

「あれは、いい素材になるだろう。蛇腹ヨロイとかにできるかと思うぞ」


 関節部分は、参考にできそうだ。


「他には、巨大殺人バチやクモ型の魔物を率先して倒しているね。どうして?」

「目の部分に使おうと思ってな」


 人間の目では、どうしても限界がある。虫の目を参考にすれば、索敵に有効かと思った。


 クモの糸は、スーツのインナーに用いている。


「いいアイデアだと思う。ただ、製造するのはワタシだから、ワタシの想像を超えるとは思わないでよね」

「心得た。こっちはバンバン魔物を始末していくからよ」


 アーマーとスライムの融合が、完了した。目の部分も、改良が済んでいる。


「さすがだな。これで索敵を……ん?」


 遠くの方で、気配が。馬車が魔物に追われている。索敵能力が向上していなければ、気づけなかった。


「これは、助けに行かねば!」


 俺は、馬車の方へと進む。


 やはり、転倒した馬車が魔物たちに囲まれていた。


 中にいたのは、中年の貴族風オッサンと、その娘らしい女性だ。二人で抱き合っている。その周りを執事や侍女が守っていた。冒険者らしい騎士たちも戦っているが、この数では。


 お嬢ちゃんが、デカイ昆虫に捕まった。そのまま空へ連れ去られようとしている。


 侍女が、懐から杖を取り出す。あのメイドさんは魔法使いか。


 魔法使いが火球を放とうとしたが、クモ型モンスターの吐いた糸に杖を奪われた。それだけでは収まらず、哀れメイドはクモの糸に絡め取られてしまう。

 四肢を無理やり広げられて、肌をあらわにされながらも、メイドは抵抗できない。とても口には出せないが、いわゆる「成人向け作品の凌辱プレイシーンでよく見る光景」になってしまった。

 このままでは、モンスターに純潔を奪われてしまうだろう。


 アカン。極めて危険な状況である。


 クモの糸はさらに、姫様までさらってしまった!


 本格的にピンチだ。今助けに行くぜ!


「イヤッハーッ! 大量の素材だーっ!」


 とはいえ、俺にとってこんなゲスいモンスターは大好物ってわけ。迷わず俺は、敵陣に飛び込んだ。


「ッシャアアア、くたばれ!」


 一太刀で、周囲の魔物たちを切り裂く。空から攻撃してくる敵も、すべて銃で撃ち落とした。


 ボトボトと、大型昆虫型モンスターが落ちてくる。


 クモ型モンスターの注意が、こちらに向く。


「テメエは、真っ先に仕留めてやるぜええ!」


 杖を奪ったクモ型モンスターのケツを、俺はねじってもぎ取った。


 姫と魔法使い侍女が、糸から解放される。


「ほらよ」


 クモのケツごと、魔法使いの嬢ちゃんに渡す。


 その後、俺は昆虫モンスターたちを壊滅させた。


 あのクモモンスターが、怪物たちの親玉だったらしい。


 他の魔物たちは従者や侍女たちの手によって、撃退されていく。

 強いな。オレが出るまでもなかった。

 クモヤロウが、特別強かったようだな。


「あぶないところをありがとうございました。わたくし、ライコネン城の姫で、フローレンスと申します」


 助けたのは、お姫様だったらしい。しかも、地位が高そうなおっさんは執事長だという。カモフラージュか。「お名前は、フローレンス・ピューから取ったのかしら」、と思ってしまう映画脳のオレよ。


「モ……ジェンシャン・ナイトのシェリダンだ」

「竜胆の騎士様、ですか。もしかして、竜胆の魔女様の。それより、ありがとうございます」


 あやうく、貴族様に素性を知られるところだった。いいんだけどな。


「なんで、襲われていた?」

「城が落とされてしまって、城下町まで逃げてきたのです。そこを狙われて」


 王や王妃も、殺されてしまったという。


 やばいな。街にも魔物が襲ってくる可能性があったのか。駆けつけてよかったー。


「ここは危険だ。すぐに退散と行こうぜ」


 ついでに、街まで案内してもらいたいと頼む。


「では、ご一緒しましょう」

「助かる」


 しかし、ここを離れようとした途端、カマイタチがあたりの木々をないだ。


 馬のクビに、カマイタチが当たりそうになる。


「やべえ!」


 オレは、刀で衝撃波を相殺した。


「なんだ貴様は? 私のデスサイズを弾き飛ばすとは」


 木の間から、女の声が。音声加工されたような声だ。


 ズシンズシンという足音と共に、草木が揺れる。


「我らを偉大なる魔王の軍勢と、知っての狼藉か!」


 全長五メートルくらいのバカでかいメスカマキリが、しゃべりながら迫ってきた。

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