第3話 魔族との戦い

「大した実力だ。このグレーターデーモンの顔に傷をつけるとは」


 なくなった魔族の顔半分が、再生した。何事もなかったかのように、語りだす。 


「テメエが、この魔物たちのボスか?」

「いかにも。魔王様のご命令で、エルフは壊滅させよと。【竜胆の魔女ソーマタージ・オブ・ジェンシャン】をあぶり出すためにな。あ奴はめったに人前に姿を見せぬ。とはいえ同胞がピンチとあらば、デて来ぬ訳にもいかんだろう」


 ほほう。その目論見は当たったってわけだ。


「だが、オレを敵に回したのは悪手だぜ。テメエは大量の魔物を放って勝ち誇っているが、オレに言わせりゃ烏合の衆ってな」


 オレが宣言すると、魔族は鼻で笑う。 


「これだけの軍勢を、たったひとりでどうやって壊滅させる?」

「こうするのさ」


 オレは両手を広げる。


 身体中から、大量の『マジックミサイル』を放出した。


 光の矢が、的確にモンスターたち「だけ」を撃退していく。着弾したモンスターの頭が、花火のように吹き飛ぶ。


 そのさまを見て、さっきまでエルフを追いかけ回していたモンスター共が、逆に逃げまどっていた。


 命を弄ぶのは、好きじゃない。が、さっきまで好き勝手やっていたんだ。追われる側の恐怖を、味わってもらう。


「人が悪いね。キミは」

「悪は許さん、とは言わない。オレもたいてい悪党だ」


 格下のモンスターを、なぶり殺しているんだから。


 彼らには、オレのスーツのテスターになってもらわなければいかん。余計な感情は、捨て去る。それでも、いい気はしない。


「使えそうな素材があったら、回収しておけ。あまり愉快な回収作業ではないだろう。けど、我慢してくれ」


 目的はあくまでも、素材集めである。だからこそ、威力の低い武器で殺しまくっているのだ。


「ああ。我が同胞を殺したんだ。それだけの報いは、受けさせる。役に立ってもらうさ」


 ニョンゴが、モンスターの死骸を回収して回る。


「なんという。すばらしい!」

「んだぁ、コイツ?」


 オレは、眉間にシワを寄せた。


「見事な戦闘能力だ。これだけの魔力があれば、魔王による世界支配も、すぐに完了するだろう。お前、我が配下となれ」


 コイツは、何を言っているんだ?


「手先になれっていうのか?」

「悪いことではないはずだ。この世界はもう、あと一〇分の一ほど支配すれば我が魔王軍の者となる。世界制覇はまもなくだ。人類の味方をするなど、無意味である」

「ほほう」

「我とともに、魔王の元へ来い。さっきの一撃は大目に見よう。大したケガではないからな」


 なるほどね。自体はだいたいわかった。


「つまり、残り一〇分の九ほど殺しまくったら、魔王の支配は終わるってわけだ」

「そういうことに……今、なんと言った?」

「お前らの敵になることにした、って言ったんだ。今からお前らはオレの敵……いや。的だ」


 魔族の顔が、けわしくなる。


「理由を聞かせてもらう」

「テメエの顔が、気に食わねえからだ」


 なんでも欲しいものは手に入れられるって面が、どうもいけ好かねえ。


「我が偉大なる魔王に、逆らうというのか。よかろう。この里もろとも、滅ぼしてくれる!」


 おお、いいね。ノッてきた!


「もっと魔物を呼んでくれよ! まとめてふっ飛ばしてやるよ!」

「よろしい。待機していた魔物を、すべてぶつけてくれる!」


 魔族が、空へ浮かぶ。


 ガアアアア! と山がグワッと盛り上がった。違う。あれは山じゃない。デカいカメのバケモノだ。


「あれはいい素材になるぞ!」

「ホントだね! ワタシのマジックボックスは無限に持ち運びできるから、あんな巨大な物体でも入れられるよ」


 それはありがたい。


「無傷とはいかんだろうが、なるべく良い状態で持って帰るぞ!」

「何をバカな! おとなしく踏み潰されるがよい!」


 大型のカメが、デカい足でオレを踏んづけた。


「フン、口ほどにも……なに!?」

「どっせい!」


 一度は地面にめり込んだが、オレは軽々とひっくり返す。



 ひっくり返されたカメ型モンスターが、起き上がれずに脚をバタバタさせてらっしゃる。


「なんと、グラントータスをこうもあっさりとひっくり返すとは」


 グラントータスって名前なのか。ドンガメって改名すれば?


「だが、どれだけ魔物を倒しても、まだまだおかわりは自由だ。見よ!」


 さらに、増援が現れた。さっきの倍はあるだろうか。すべての魔物を呼び出してやるといったのは、ウソらしい。まったく、魔族の考えそうなことだ。


「どうだ? 魔物たちはゲートさえあれば無限に湧き出てくるのだ! 物量に押しつぶされて、生まれたことを後悔するがいい」


 魔物たちに俺たちの相手をさせる間に、カメの体勢を立て直すつもりなんだろう。

 そうはいくかっての。


「マジックミサイル」


 オレは、さっきの三倍のミサイルを、魔物たちに向けた。


 悪夢、再び。また魔物たちが逃げ惑う。だが、オレのミサイルは的確に魔物たちを撃墜していった。


「二時と四時と九時の方向に、ゲートあり」

「落とさせてもらおうか!」


 ついでに、ゲートとやらも壊させてもらう。


「なにいいい!? あれだけの攻撃をして、まだこれだけの余力を残しているだと!?」


 驚くことじゃない。たったこれだけの兵隊でオレに挑んだお前が悪いのだ。


「仕方ない。私自らが出る!」


 魔族が円錐状になり、さっきからバタバタしているカメの胴体を刺し貫く。


 ギエエ、とカメが断末魔の叫びを上げた。


 だが、カメモンスターが物理法則を無視してビョン、と起き上がったではないか。脚はスラっと伸び、首の部分が巨人の上半身となる。甲羅の部分にも、目がギョロッと開く。


「フハハハ! これが我が真の姿! この姿を見て、生還できた人間はいない!」


 人間はいない、か。では、人外なら大勢いそうだな。


「死ねえ!」


 大型のカメが、キックを繰り出す。


 力比べも兼ねて、オレは迎え撃った。全身で、ケリを受け止める。


「おおお、さすがはパワーアップしただけはある!」


 キャッチはできたが、振り回せはしない。この辺りはしっかり強くなっているようだ。ならば、焼き尽くしてやる。オレは両手の光線を、足の裏に浴びせてやった。


「ぐおおおお!?」


 あまりの熱さに、カメ型魔族が脚を引っ込める。


 オレは、空へ跳躍した。


「おのれ!」


 魔族が、目から怪光線を出してくる。


「やっぱりね、目があるならビーム出さないとね!」


 スイスイ避けていく。


「何を楽しそうに!?」


 オレを撃ち落とさんと、魔族は光線を乱れ打ちしてくる。


 だが、まったく当たらない。それどころか、オレの攻撃で目が潰されていく。


 パワードスーツの性能テストで、戦ってみてわかった。


「……前言撤回。こいつ、あんまり強くねえ」


 コイツは、攻撃の引き出しが少なすぎる。硬い甲羅を攻撃手段に活用したのも、バランスが悪い。


「だね。とっとと倒そう」


 カメ魔族の甲羅を、手からの光線で焼く。ようするに、釜茹で作戦だ。


「ごおおおおおおおおお!?」


 逃げてもムダだ。罪を償わせるため、じっくり焼いてやる。


「ごめんなさいって言ったら、楽に殺してやる」

「……こ、これで勝ったと思うなよ! 我が死んでも、第二第三のぬおおおお!?」


 うるせえな。最期までしゃべらせねえよ。


 命乞いは、しなかった。勇敢なんじゃない。プライドが高い故だろう。


 モンスターは全滅したか。


「うーん。リミッター解除するほどでもなかったな。しかし、パワーはやばい」

「魔物の素材を犠牲にすれば、帰りの魔力くらいは持つかも」


 さすがに、力を使いすぎたな。


「あの、ありがとうございます」


 エルフの長老らしい人が、代表としてオレの前に出た。


「いえいえ。素材が欲しかっただけですので」


 見返りは、十分いただいている。魔物の死体とか色々と。



「お礼に、このレクシーめを差し上げます」



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