第2話 初戦闘、ドラゴンパピー

 新しい肉体の、身体能力も高いようだ。肉弾戦なら、スーツなしでもい

けたな。


 頭を軽く掴んで振ってやるだけで、相手は簡単に絶命する。実に、楽ちんだ。


 なるべく省エネで動き、相手を倒す。

 こちらの魔力がどれだけ持つか、わからないのだ。

「野盗ごときに全力を出して、パワー切れで負けました」とあっては、目も当てられない。


 それにしても。


「弱いし、ロクなアイテムを落とさねえ」


 野盗の落とすアイテムは、どれもゴミばかりだ。


「ただの野盗だからね」


 もう少し歯ごたえのあるヤツラかなと、期待した。

 ただの人間相手では、この開き具合になるのだな。


 これはもっとテストが必要だ。


 さらに強い魔物を適当に狩って……ん? 


「こ、こいつ、なんだってんだ!?」


 野盗のボスらしき男が、骨でできた笛を吹く。


「いっ、いでよ、ドラゴンパピーッ!」


 馬車を引いていた馬が、突然うめき声を上げた。

 オレがよく知るドラゴンの形をとる。

 オレが知っているドラゴンの召喚方法とは、随分と違うが。「驚かないね。さすが特撮番組に詳しいオタクなら、見慣れているかい?」


 ニョンゴが、オレに問いかける。


「だな。それにしてもデカい。着ぐるみやセットとは、やっぱり違うな」


 ドラゴンパピー……パピーとは子犬って意味だが、子犬の意味を履き違えていないか?

 どこの世界に、馬よりデカい物体を「子犬」と呼ぶ?


「いいねえ」


 このドラゴンの素材は、パワードスーツに使えそうだ。


「剥ぐぜ」

「許可するよ。身ぐるみ剥がしてやろう」

「おっしゃあああ!」


 ようやく、全力で戦えそうな相手である。


 まずは、腕試しだ。


 ドラゴンパピーと手四つに。

 いける。スーツのパワーは、小型ながらドラゴンには負けていない。


 パピーの口が開く。火炎放射が来るか?


「よーし、どんとこい!」


 オレは、火炎のブレスをマトモに浴びた。


「やったぜ! クソ冒険者を……はあ!?」


 困惑するボスに対し、オレはピンピンしている。

 といっても、全身を軽く火傷した。


「あっちい!」


 あまりの熱さに、オレはパピーを期に投げ飛ばす。

 ジャバラになった部分を自動的に開放して、熱を逃がした。


「おいおい! このスーツ、熱は突き抜けるじゃねえか! 熱いのなんの!」

「それは、想定していなかった。再考が必要だね」

「ぜひ、お願いしたいね!」


 スーツから熱を放出して、仕切り直しだ。


「ぐええええ!」


 パピーが、背中をかばいながら動く。さっきの投げで、背骨をやったか。


 また、ブレスが来る。


「トドメだ。必殺技をくらえ!」


 オレはいい感じの武器を探した。しかし、なにかいいものはないか。

 もっとスカッとするような、鮮やかテイスティな。


「手をかざせば、無属性の破壊光線が出るよ」

「オッケーッ! くらえ!」


 オレは、魔物に向けて手をかざす。


 スーツと同色、青紫色のビームが手から伸びていった。


 あっさりと、ドラゴンパピーの頭部を貫通する。


 ボンと、ドラゴンパピーの頭が吹っ飛んだ。角やら牙やらが、ボトボトと地面に落ちていく。


「だから、やりすぎだっての! せっかくの素材が、ほとんどダメになったじゃねえか!」

「加減がわからんのだよ!」


 だが、学ぶことも多い。ドラゴンパピーは、目じゃないってわけだ。



 あと、ウロコと牙と角は、ありがたくいただくとするか。


「一番高価なのは、目玉なんだけどねぇ。跡形もなくなっちゃった」

「次からは加減しろ」

「はーい」


 まったく。力が有り余っているのも考えものだな。


「動くな!」



 あーあ。野盗のヤロウ。あの巨乳エルフちゃんを人質に取っちゃったよ。


 相手の忠告も聞かず、オレはズンズンと前進する。


「動くなっつってんだろ! このガキの命はピ」


 自分が何をされたのかわからないスピードで、野盗のボスは首を一八〇度回転させた。


「大丈夫か?」

「ありがとうございます」


 オレが尋ねると、少女は頭を下げた。


「モモチ、彼女、首輪で魔法を遮断されている。外してやってくれ」


 目の光で、ニョンゴはエルフちゃんの首輪を差す。


「力でぶっちぎっても?」

「OKだよ。人間じゃムリだけど、キミなら」

「ああ。問題なかった」


 いけそうだったので千切ってみたが、うまくいった。


「話は後だ。お前さんの故郷も助けよう」

「え、いいんですか?」

「ああ。ついでだ。オレにつかまっていてくれ」


 オレは、エルフちゃんを抱きかかえた。


「えっえっふわああああああ!?」


 悲鳴を上げる巨乳エルフをお姫様だっこしながら、オレは火の手が上がっている方角へ。


 トランジスターグラマーなエルフちゃんを抱えながら、オレは煙が上がっている街を目指す。


「あんた、名前は?」


 エルフちゃんに、オレは声をかけた。


「レクシーといいます」


 かわいいな。女優のレクシー・レイブから取った……わけないよね。異世界の女の子が、洋画なんて知らないだろう。


「いい名前だな。オレは、百地ももちが……モモチだ」


 フルネームで名乗ろうとして、ためらう。


「ニョンゴ、ここって異世界だろ? 名字持ちは特殊なのでは?」


 オレは、浮遊してついてくる招きネコ型ドローンに、話しかける。


「そうだね。キミの言う通り、名字持ちは貴族や王族に限られる。フルネームは避けよう」


 オレの隣で浮かんでいるダークエルフの魂ニョンゴも、同意した。


「ワタシも、名前を持っていない。人から付けてもらったあだ名を、そのまま名前に使っているんだ。普段は人から、魔女様、魔女様って呼ばれていたよ」


 なるほどな。


 オレはこの世界で、なんて名乗ろうか。


 生身は、モモチでいい。スーツはどうするか。


 スーツの名前までも『ニョンゴ』にするってのも、なんか違う。あれは魔女の名前だ。


 もっといい名前はないものか。


 日本一有名な巨大宇宙人は、シルヴィ・バルタンから取っている。

 金属製ヒーローは、ジャン・ギャバンやロイ・シャイダーからだろ?

 銀河鉄道999のヒロインは、メーテル・リンクからだ。 


「もしもしレクシーちゃんや。いい名前はないかな?」

竜胆の騎士ジェンシャン・ナイト様という名前が、いいと思います」


 ちょっと待て。


「レクシー。いつオレたちが、竜胆に関連しているとわかった?」

「さっき、そちらのダークエルフ様が」


 ネコドローンから光が出て、ダークエルフが空中であぐらをかいている。何一つ、悪びれていなかった。


 オレが考えごとをしている間に、ニョンゴはレクシーに、自分が竜胆の魔女だと明かしたらしい。


「ヒーローは、正体をむやみやたらと広めないもんだ」

「エルフの里に行くんだよ。素性は明かしておいたほうがいいと思ってね。こういうのは、信用の問題だからさ」


 さいですか。ならば、隠し事は抜きでいいと。


 たしかに、エルフがどれだけ偏屈なのか、オレにはわからん。交渉役として、ニョンゴには役立ってもらうか。


 ジェンシャン・ナイトか。いい名前だ。とはいえ、使うとすれば二つ名だな。もっと具体的な名前が欲しい。オレだけの。


「これは、オレたちとアンタだけの秘密だ。守れるか?」

「はい。承知しました」

「着いたな」


 名前問題は、保留にします。まずは、人助けを優先しましょうかね、っと。


 里に着くと、もうほとんどのエルフが死んでいた。息をしているものもいたが、もう助からない。


 モンスターたちが、嬉々としてエルフの子どもを追いかけている。


 とりあえず、最も殺戮を楽しんでいるやつから片付けるか。


「なんだ貴様は、魔王さまの生贄としてとらえたはずのエルフを、連れ戻すとは」


 エルフの剣士の胸を貫いていた貴族風の男性が、こちらを向く。


 見た目からして、おそらく魔族とかそんな感じだろう。二本の角が、やけに仰々しい。


「あれは魔族?」


 ニョンゴに聞いてみたら、やはり魔族で正解のようだ。


「しかもあいつ、幹部クラスだよ」


 貴族っぽいしな。


「ちょうどいい。すばらしい的になる」


 相手を吟味するように、オレはアゴに手を当てる。


「命が惜しくないようだな」


 貴族風の魔族がエルフ剣士から腕を抜く。


「貴様も、このエルフ共のように皆殺しにしてや」

「あ……」


 レーザー撃ったら、頭が半分吹っ飛びやがった。


「やっちまった」

「でも、死んでないからノーカンだよ」


 ホントだ。頭が半分になってるのに、まだこっちを見ている。

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