転生特撮ヲタ、異世界でダークエルフの霊にそそのかされてパワードスーツの開発をして、世界を救うことに。俺は特撮フィギュアが作りたいだけなのに。

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第一章 竜胆の騎士《ジェンシャン・ナイト》

第1話 脱サラ特撮ヲタの転生先

 気がつくと、オレは緑色の水に満たされたカプセルの中にいた。


 口には、酸素マスクが付けられている。


 ここはどこだ? 病院か?


 くそう、自宅でエナドリ百本一気飲みしてからの記憶がない。

 誰かが、オレを病院まで連れてきてくれたのか?

 その治療の一環なのか、エナドリのカプセルに入った夢なのか、判断に困った。


 顔は水に浸かっているが、景色はよく見える。

 どこかのラボのようだが、スチームパンク臭いというか、明らかに地球の模様ではない。


 わかるのは、いつものプラモ作るための自室じゃないってことだけ。

 格好も、丸裸だ。やけに筋肉がついている。実物のオレは、ミイラ並みにガリガリだったはずだが。


 ここは、ゲーム世界か?

 VR空間であることも想像したが、どうも違う。

 水の質感、マスクの感触、そして、目の前にあるパワードスーツらしきヨロイ。


 目の前にフヨフヨ浮いている招きネコ、どれもホンモノだ。オレにはわかる。


……招きネコって、飛ぶっけ?


「ようやくお目覚めのようだね、百地モモチ ガイ


 褐色の少女が、オレの名を呼んだ。正確には、ホログラム? というか、ぼんやりとした映像としてだが。


 映像は、招きネコような物体の目から映し出されていた。

 ラグビーボールのような形である。

 ネコの目鼻を思わせる点や曲線が、顔の部分についていた。


「今、出してあげるよ」


 カプセルの横にある青いランプが、赤へと変わる。水槽の水が引いていく。

 すべての水が抜けると、カプセルが開いた。オレは外に出る。


「逃げないんだね?」

「脱走したって、勝手がわからないしな」


 改めて、オレはホログラムの少女を見た。


 ショートボブの少女は、耳が横に尖って生えている。いわゆるダークエルフって感じか。

 八重歯があり、背が低い。服装は青紫色のベストと、同色のハーフパンツである。


「あんたは?」

竜胆の魔女ソーマタージ・オブ・ジェンシャン


 竜胆の魔女か。壮大な名前だな。


「オレを呼んだのは、あんたか?」

「だろうね」


 ん? だろうね、だって?


「確証はないのか?」

「ああ。あの装備を開発する過程として、こっそりキミの知識を得ていた」


 ホログラムが、スーツを指さした。あのヨロイも、青紫色である。


「あれは、パワードスーツだよな」

「そうだよ。キミの特撮知識を借りて、製法をマネてみた。一応、火力は足りているはずだ」


 ホンモノの、パワードスーツか。

 一応、介護スーツとか自衛隊の強化スーツとか見たことはあるが、実物を見るのは初めてだ。


「キミは自分が死んだって、自覚しているよね?」

「ああ。多分、オレは死んだんだろうな」


 さすがに、エナドリ百本は飲みすぎたか。


「いや、栄養ドリンクは死因じゃない。厳密には、キミの意識を世界とシンクロさせすぎた。申し訳ない」

「いいんだ。どうせオレは余命宣告されていたから」


 健康診断で、「後一ヶ月以内に生活改善しないと死にますよ」と医者から言われていた。

 まだ四五なのに。

 それで「どうせ死ぬなら一生懸命自分のしたいことをして死のう」って思い至る。

 脱サラして、プラモやフィギュアと向き合おうと思っていたところだ。


 目覚めると、異世界にたどり着いたわけだが。


「どうせ寿命だったんだ。第二の人生を生きさせてくれてありがとう」

「そう思ってくれると助かる」


 健康な体が手に入ったんだ。満喫してやろうじゃないか。


「で、あんたはなんでホログラムなんだ? えっと……ソーマなんとかさん?」

「長いから適当に名前つけてよ」

「自分の名前とかないのか?」

「生まれつき『竜胆』とかしか呼ばれていないかな? でも竜胆って名前で読んでほしくないかなぁ。一応、死んだってことになっているし」


 ホログラムの姿も、擬態らしい。ホンモノは、もっとババアだったという。


 名前がほしいと。ならば、なにがいいかな。褐色で女性って言ったら……。


「ニョンゴ」

「変わった名前だね」

「ネコをモチーフにしているようだから、『ニャンコ』にしようと思った。けどありがちだし」



 一応、意味は持たせてある。



【N:Nomenclature《ノウメンクレイチャー》『術語体系』】

【Y:Yield《イールド》『生み出す』】

【O:Onslaught《オンスロート》『猛攻撃,猛襲』】

【N:Noetic《ノエティック》『精神の、知性の』】

【G:Gumption《ガンプション》『不屈の精神』】

【O:Object《オブジェクト》『物体』】



 とした。


「なるほど。一言でいうと『不屈の精神で猛攻撃をもたらす、術語体系型の精神生命体』ってわけだね?」

「そういうこった。あんたらの世界で通じるか、わからないが」

「いいんだ。キミの言語は、この世界でちゃんと翻訳されているから。それくらいの処置は、させてもらったさ」

「なら、ありがたい」


 ケニア人女優の『ルピタ・ニョンゴ』から取りました、とは言わない。

 さっきの用語も、全部思いつきだ。


「あんたも、死んだのか」

「うん。寿命を迎えてね」


 エルフでも、寿命で死ぬんだな。


「ソレ以前に、ワタシの知恵を求めた魔族に追われていたから、こうやってこっそりと兵器を開発していたんだ。それで寿命をさらに縮めた」


 よって、人格を招き猫ニョンゴに写して、生きながらえていたらしい。

 肉体が滅んだ後も、開発を進めていたという。


「で、完成したのが、これだ」


 青紫のボディを誇る、全身ヨロイだ。


「それで、オレはなんで開発されたんだ」

「元々はワタシが入る予定だったんだが、ヨロイが重くてね。肉体を捨てて、キミのボディに魂を転送させる予定だった。しかし、先にキミが入り込んだ」

「あっちゃー。それは、悪いことをしたかな?」

「いいよ。この体だって悪くない。元々、荒ごとは苦手だったしね。それよりどうかな? 結構自信があるだけどね!」


 やたら誇らしげに、ニョンゴは青紫ヨロイを見せびらかす。


「感想を聞かせてくれ給えよ」


 ニョンゴが感想を欲しがっているので、ひとこと言ってやった。


「ダセえ」


 オレが言うと、ニョンゴが信じられないって顔になる。


「なっ!? いくらなんでも失敬じゃないか! これでも、最新の術式装備を全身に施した、魔法も打てる肉弾戦闘可能なヨロイって売り込みなんだからねっ! それがダサいだって!?」

「ヨロイは実用性や、機能美だけじゃねえんだよ! もっとオシャレにも気を使えってんだ! あまりにも無骨すぎるだろ!」


 カッコイイヒーローを愛するオレにとって、このデザインは不格好と言うしかない。


「キミの特撮技術の粋をかき集めて、それっぽい装備をあちこちに施していたんだ。ビジュアルにまで気が回るかっての!」

「それがダメだってんだ! こんな見た目じゃ、ガキが怖がるだろうが!」


 青紫を貴重にしているデザインは、いい線をいっていた。

 たしかにこれは、戦闘面で活躍できるだろう。


 しかし、ホーローがヒーローたる所以は、その清潔感ある見た目、ビジュアルなのだ。

 どれだけ活躍しようと、やはり第一印象が悪いとネットでも叩かれる。


「それくらい、見た目って大事なんだよ」


 オレは、ニョンゴに力説した。


「とはいっても、ワタシにビジュアルを直す技術はない」

「よし、わかった。オレが見た目を改造してやるよ」

「ホントか?」

「アンタはどうも、見た目とか気にしないタイプみたいだし」


 オレの前に現れたその姿も、明らかに寝巻きだしな。


「まずは、ヨロイを着させてくれ。オレ、ずっとハダカなんだよ」

「確かに、これでは露出狂だな」

「パワードスーツの試運転も兼ねて、ちょっくら外へ出るよ」

「おう。ただ気をつけてくれよ。周りは魔族だらけだからね。魔族相手にどこまで通じるかは、まだ未知数だ」

「心得た。なるべく交戦しないようにしよう」


 オレは、外へ出た。さっそく飛んで見るか。


「足の裏にある魔石に、浮遊効果があるんだ」


 ニョンゴがついてきた。さっきのスピードに追いつくとは。


 他にもこのヨロイは、背部にあるジェットを使って、どうにか飛べるようだ。


「うわあ! 飛んでる。オレ飛んでるよ! ん?」


 牢屋を積んだ馬車が、街へ続く道を進んでいる。


 どうやら牢屋で鎖に繋がれているのは、エルフのようだ。


「よし、今助けてやるぞ!」


 ニョンゴの忠告も無視して、オレは馬車へ向かう。


 牢屋つきの馬車、曲刀を携えた悪党、これは戦闘でしょう。

 野盗の前に、オレは着地する。


「な、なんだテメエは!」


 装備から見て、敵は野盗らしい。見るからに、悪党ヅラである。装備から、血の匂いがした。どこかで何人かの命を奪ったか。


 囚われのエルフは、怯えきっている。見た目は少女だが、それに似つかわしくないお胸をお持ちで。ニョンゴにない代物である。


「遠くに、火の手が上がっている。あそこが、エルフのいた集落だったのだろう」


 だとしたら、許せん。


「装備の試運転もそうだが、各武器の使用許可を」


 オレは、頭の斜め上を浮かんでいる招き猫型ドローンに問いかける。


「認めよう、百地モモチガイ。代わりに、同胞を救ってくれ」

「承知」


 オレは、眼の前にいる野盗共に目を向けた。


「なんだテメエ!? このエルフを高値で売ろうってときに、今度はヨロイのバケモンかよ!」


 ああ、コイツらにはオレがバケモノに見えていると。

 ならば、バケモノらしく振る舞おう。


「ニョンゴ、コイツらの装備なんて、奪ってしまっていいよな?」

「ああ。この者たちの紋章から察するに、近隣の野盗どもだ。排除して構わんだろう。ヨロイの試運転には絶好の的だ」


 的、か。悪党の末路には、ちょうどいい。とはいえ。


「念のために聞くが、この世界は人殺しって、罪に問われたりはしないか?」

「彼ら野盗は、むしろ賞金首だ。デッドオアアライブだよ」

「わかった」


 ならば手加減無用だ。


「聞いてんのか、てめえ!」


 後ろに、刃物の気配が。避けるか?


「ニョンゴ、スーツに傷がつくかも」

「いいよ。回避の必要はないから」


 さいですか。では、甘んじて受けよう。


 ガキイイン……と情けない音を立てて、敵の曲刀が折れた。

 剣を振るった男が、怯えながら後ずさる。腰を抜かして、尻餅をついた。


「さて、お前はどんな音がするのかな?」


 オレは、敵に裏拳をかます。




 パアン! と激しい爆発音がした。




 やっちまった、と一瞬思う。



 いくらさっき人殺しをしてきた野盗と言えど、いいものか、と。



 しかし、敵の殺意から見るに、やらなければこちらが死ぬ。

 あるいは、あのエルフちゃんが危ない。


 今の攻撃で、野盗が怯えきっていた。


「ななな、何をしてやがる! 殺せ! さっさと!」


 野盗のボスらしき男が、部下たちを煽る。本人が一番ビビっているのに。


「手早く倒す」

「それがいいね」

「あと、腕力及び各種機能を微力に調節」


 今のままだと、出力が高すぎる。いわゆる、オーバーキルってやつだ。


「いいのか? ヘタに手心を加えたら」

「オレがなりたいのは、ヒーローだ。人殺しじゃねえ」


 あれでは、かえって救助者を恐れさせる。

 また、出力過剰ですぐにスーツのパワーが切れるだろう。


「ちょっとは、加減しろ。今のは、やりすぎだ」

「ゴメン。同胞をひどい目に合わされて、頭にきた」

「気持ちはわかるよ。だから……始末はオレに任せろ」


 オレは、高速移動を開始した。


 回し蹴り、武器を奪って攻撃。

 矢を撃ってきた遠方の相手に、持っている曲刀を投げつけた。

 それだけで、大半の野盗が無力化する。


 これでいい。ど派手な戦闘は、案外非効率だ。

 本音を言えば、かっこよく立ち回りたい。

 しかし、あくまで優先はエルフちゃんの救出である。

 数を減らして、機会を伺う。

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