第52話 新たな武装
折角手に入れた大金ではあるが、廃棄地区で少なくともヒトヤにはその金の使い道はない。
食料をイクサが過不足なくどこからか仕入れてくる今の生活。
市民権を買って都市に住居を構えようと思うなら話は別だが、ヒトヤにそんな望みはない。
ヒトヤにとって都市は仇である騎士の住処だ。いるだけで感情を逆なでされる。
ヒトヤが慈愛に溢れた順物ならばアランズマインドに寄付でもして、何人かでも都市に戻すよう言ったかもしれないが、ヒトヤはそんな人物でもない。
むしろ自身の安全な寝床の為、アランズマインドには人が増えて欲しいとすら思っている。
結局ヒトヤはその金を自分の強化に使うことに決めた。
ランクも20に上がったのだから買えるものも増えているだろう。
武装を調達するには結局都市に行かねばならない。そのことに若干頬を膨らませつつもヒトヤはボンボ武装店へと向かった。
「へい、いらっしゃい」
ボンボ武装店に入ればドヴェルグの太い声が響く。
「今日はレミナ達はいないのか?」
「うん、あいつらに用事か? なら、残念ながら今日は来てねえ。日を改めな」
「いや、そういわけじゃないんだが。なんかいつもいるような気がしてさ」
「あいつらはウチの店の置物じゃねえし、仮にそうでも置きたくはねえ」
確かにヒトヤはレミナ達に用事はなかったし、別に会いたいとも思っていなかった。一方来ればいるとも思っていた。
いるものがいなかったという予想が外れたが故か、それとも別の感情か。
妙に胸の辺りが疼くような感情をヒトヤは自分でもなんなのか理解できなかった。
いないものはいないでしかたがない。ヒトヤは気持ちを切り替えドヴェルグに武装強化について相談を始めた。
「ランク20……跳んだな……そうか。そうなると……」
現在装備している機械鎧はランク20で本来漸く売り出されるものだ。
機械武器に比べ機械鎧は買えるランクのハードルが低い。
機械武器を装備した人形狩りがあっさりと外で命を落せば、原料乏しい都市で使われた資材が無駄になり、メーカーの評判も落ちる。
一方メーカー側には売れなければ金にならないという切実な事情もある。
武器というのは人によって好みが分かれる。剣、槍、斧、弓矢……人形狩りが十人いれば十種の武器が必要になる。
しかし防具となれば話は別だ。そこまで大きな差は出ない。
誰もが丈夫で軽いものを探している。
サイズの調整機構さえあれば、性能によって十人が十人選ぶ防具を作ることも可能である。
武器より遙かにに防具の市場範囲と需要は広い。となればそこに手を出さないメーカーはいないだろう。
だから廉価版など評価を下げられない理由をつけて低ランク帯でも買える防具を販売している。
防具で収益を得、武器で市場評価を上げる。そして評価の高いメーカーの防具をこぞって人形狩り達は買う。そのサイクルを造り出すことが都市の武装メーカーの経営指針だ。
とはいえ、既にヒトヤは機械鎧を装備している。同性能の鎧を買う理由はないのだから、幸か不幸かこの防具と武器のハードル違いの恩恵をヒトヤは受けられない。
では武器を見直してみるかと考え、自身の刀に目を向ける。
細かい傷やくすみはあれど、今もイクサから授かったころから変らず、欠けも曲りもない刀。
ドヴェルグに最初に言われたとおり、この刀を超える武器が機械武器以外にあるとはもはやヒトヤも思っていない。
「武装の強化より、追加を考えるべきか……そうだな、ちょっと待ってろ」
そう言ってドヴェルグが店の奥から持って来たのは
「盾のついた籠手?」
「そう見えるだろ?」
にやりと笑みを浮かべながら裏庭にヒトヤをドヴェルグは案内する。
そこに散々切り傷や穴の空いた丸太を立て、ドヴェルグはその丸太から距離を取った。
「何やってんだ?」
「まあ、見てろ」
籠手を装着し、その腕を丸太に向ける。
ガシュンッ! と金属が弾けるような音と共に丸太に短い矢が突き刺さった。
「おお!?」
「ヒドゥンシューター。ウラノシマ社製のスプリングショット内蔵の盾だ」
単純なスプリングの力で矢を射出する装置を籠手に取り付け、その表面を盾で覆ったような防具。
「こいつも機械と言えば機械なんだが……防具でもあるし、何より前世界の技術の再現って程大袈裟なものでもないからな。これならランク20でも売れるぞ?」
今より遙かに進んでいたと言われる前世界の技術。高度なその技術を再現した装備が一般的には機械武器、機械鎧などと呼ばれる。
スプリングショットも機械と言えば機械なのだが、誰もが解るようなカラクリを機械装備という括りで呼ぶものはいない。
その為、機械仕込みの武器でも低ランクで手に入る物がないわけではない。
「バネを巻き上げるのに時間がかかるから連射は出来ねえ。まあ、ここぞという時の切り札とか、どうしても高所の敵に反撃しなきゃいけないような時でもなければ使い道はねえとは思うが」
「それ、いいな!」
「だろう? 買うか? 二十二万ゼラだ」
「安いな! 買う!」
「安い? ……おお、そ、そうか」
ドヴェルグはヒトヤの手に入れた大金を知らない。
二十二万という金額を聞いてヒトヤのあたふたする姿を想像していたドヴェルグは、一瞬惚けながらも、ヒドゥンシューターをヒトヤに売却した。
「他に買えるものはないか?」
「うん? まだ予算があるのか?」
「ああ……」
思わず一千万という数字を言いそうになり、ヒトヤは言葉を飲み込んだ。
先日狙われたばかりだ。余り知られない方が良いだろう。
「あとはそうだな……最初に来たとき買った肩や膝のプロテクターを一新する位か?あと防護服も。あと二十万ゼラもあればそいつの矢も合わせて、今買える一番高性能なものを揃えられるぞ?」
ドヴェルグもまさかヒトヤがそんな大金を得たとは思わない。
じゃあそれで、とあっさりと購入を決めたヒトヤに再度呆然としながら、ドヴェルグはランク20に売れる最も高性能な防具をヒトヤに売却した。
レミナ達アマゾンスイートは呼び出しを受け、都市平民街の酒場の隅にあるテーブルで相手を待っていた。
センターを通しての呼び出しではあるが、相手が何者かは解らない以上警戒はすべきである。
交渉役のレミナは席に着いたが、ミヤビ、カレンは直ぐに戦闘態勢を取れるよう、レミナの両脇を固めるように立っている。
酒場の主人からすれば見慣れた光景だ。
問題を起こしてくれるなと書いてあるかのような表情を浮かべながらも、巻き込まれない為か、我関せずとレミナ達と目線を合わせようとはしない。
そしてレミナ達が酒場に到着してから四半刻程してその相手が現われた。
「いやぁ、どうもすいやせん。少し遅れちやいましたかね?」
「ええ、時間は守ってほしいものね。こちらも暇じゃないのよ」
詫びる言葉とは裏腹にヘラヘラとした顔から全く謝罪の気持ちを感じられない相手を、辛辣な言葉と共に睨み返すレミナ。
既に交渉は始まっている。舐められては負けだ。
「そうお怒りなさらずに。アッシもさっき来る様にいわれて……ほんとはバシンの旦那がくるはずだったんですが……」
「バシン?」
「ええ、いや、こっちの話でさぁ。さて、待たせた上に言い訳で時間を使わせたら申し訳ねえですからね……早速用件に入らせて貰いまさぁ」
「……そうして頂戴」
レミナは交渉の最初の敗北を自覚した。
本当ならレミナは相手が遅れた時点で時間を守れぬ者と交渉など出来ないと、席を立つ予定だった。
それでよしとする相手なら、交渉は誰とでも良かったということだ。どうせ大した内容ではない。逆に呼び止めてくる相手ならばその様子で相手の内情が見えてくることもあるし、値をつり上げることも可能だったかもしれない。
しかしレミナはそれができなかった。
目の前の男の態度から流されてしまった部分もあるが、それ以上にバシンという名から男の用件を聞かないという選択肢を失ってしまったのだ。
バシン。その名はレミナ達のような者からはよく知られている。
「あ、そうそう申し遅れました。自己紹介させて頂きやす。アッシはビドウ。ビドウ・ウラヌキ。ロックスラムのもんでさぁ」
「ロックスラム……」
「ええ。ご存じでしょうかね? 廃棄地区でアンタ方の同類が頭張ってる一派です」
ヒトヤがボンボ武装店から廃棄地区に帰る路の途中には当然都市の門がある。
基本的に騎士や人形狩りでもなければ都市の外に出ることはない。
また彼等が都市から出るのは早朝であることが多い。
警戒すべき都市の外。視野の効く明るい時間対をなるべく確保したいのは誰だって同じだ。だから薄暗いこの時間対に都市から出ようとする者など、廃棄地区に住むヒトヤ位のものだ。
しかし、ヒトヤと同じ時間帯に門から出る男がいた。
(珍しいな)
そう考えたヒトヤの背筋に何かが走った。
(なんだ?)
その理由が解らず、おそらくその原因であろう男をつい凝視するヒトヤ。
ヒトヤの視線に気が付いた男は振り返り、ヒトヤを見た。
「おや、こんな子供がこんな時間に。廃棄地区の住人ですかい?」
ヘラヘラと気安く話しかける男に毒気を抜かれながらもヒトヤは応える。
「……ああ」
「悲しいねえ。ボウヤみたいな子供が捨てられる。嫌な世の中だと思いやせんか?」
「……別に」
「それを悲しいとも思えない。いや、世も末で」
大袈裟な態度で嘆いてみせる男の表情は、しかしやはりヘラヘラと笑っていた。
「ところで、廃棄地区ってことは……どこに属してるんで?」
男の言葉にはっとなるヒトヤ。
廃棄地区は三つの派閥が勢力を別ける。つまり、アランズマインドでないならば他の派閥。敵なのだ。
「そう警戒しなさんな。レックスリゾートに子供の人形狩りがいるって話は聞いてやせんし、まあ、そうだとして……ふむ」
「なんだ?」
「いや、ところでボウヤ。さっきから刀を握っていやすが、ここでアッシと戦う気で?」
「!?」
つい警戒の余り、刀に手をかけていたことに漸くヒトヤは気付いた。
「気をつけなさいなボウヤ。相手によっては問答無用で斬られやすぜ?」
男の言葉に刀から手を離すヒトヤ。
「うんうん、子供は素直が一番でさぁ。おっと、こうしてる場合じゃなかった。じゃあ、アッシはこれで。縁があったらまた合いやしょう。」
そう言って廃棄地区に向かう男の背をヒトヤは消えるまで見届けた。
ヒトヤはふと自分の手の平がぐっしょりと汗で濡れていることに気付く。
戦いを経てヒトヤは強くなった。身体能力だけではない。敵の実力をある程度見極める洞察力も手に入れた。
ヒトヤの背筋に走ったのは寒気。先に目の前にいた男が自身より各上であるという事実を感じ取っていたからだと、ヒトヤは男が消えた後に漸く気が付いた。
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