2巻 ~義賊を名乗る者~
第25話 装備の更新
いつからか人間を見ると襲うようになった、かつてアンドロイドと呼ばれた人型機械ロイドバーミンが蔓延る世界。
城西都市ヒガシヤマトの騎士に家族を殺され、育った村を焼かれたヒトヤ。
イヨナに手を引かれ、連れてこられた廃棄地区でヒトヤはイクサに引き取られた。
ヒトヤは村を焼いた騎士の全てに復讐すべく、力を手に入れる為にロイドバーミンを狩る者、人形狩りとなる。
人形狩りになって間もなく受けた依頼。新たに見つかった地下遺跡の探索。
三百人近くの人形狩りが参加したその依頼は、多くの犠牲を出した一方、生き延びた者達の得たものは少なくなかった。特にヒトヤの様な者にとっては。
依頼報酬三十万ゼラ。そしてロイドバーミンの討伐報酬。
五十万ゼラ以上のヒトヤにとっては大金を持って、ヒトヤは装備を更新する為に都市のボンボ武装店まで足を運んだ。
店の扉を開けると、カウンターには店主ドヴェルグが立ち、その前にレミナ達アマゾンスイートの三人が並んでいた。
「おう、いらっしゃい」
「あら、ヒトヤ」
「やっほー」
「ああ、えっと……どうも」
ドヴェルグに続き、笑いかけるレミナと手を振るミヤビ。カレンも微笑みを浮かべて軽く頭を下げた。死地を共にくぐり抜けて打ち解けた間柄ではあるが、ヒトヤは手を振ってくる相手にどう応じていいのか経験のなさから解らず戸惑った。
ヒトヤの戸惑う様子に苦笑を浮かべつつ、ドヴェルグは店主としての務めを果たそうとヒトヤに声をかける。
「それで、今日はどんなご用件で」
「装備を買いに来た。あー、急ぎじゃないから先にそっちとの用件を済ませてくれ」
「こいつらは気にしなくていい。もう買い物も終わって雑談してるだけだからな」
そう言いながらドヴェルグが視線でレミナを指すと、レミナは苦笑しながら肩を竦めた。
「客に対して酷くない?」
「客として扱って欲しけりゃ、なんか買っていけ」
「買ったじゃない。このシールド」
「毎度ありがとうございます! これでいいか?」
「余計な一言がなければね。そんなんだから繁盛しないのよ」
「俺がこんな態度をとるのはお前らだけだ。ていうかお前だけだ。ほれ、次の客がつかえてんだ。用が終わったら帰れ」
「やーね。失礼しちゃう。そうやって客の悪評を買ってると、この店も義賊に狙われちゃうわよ?」
「こんな貧乏店狙わねえよ。むしろ義賊なら金を置いていってくれらあ……本当に義賊ならな」
「ふふ。それもそうね」
からかうように笑いながら店を出るレミナに続き、ミヤビはヒトヤに「じゃあね」と手を振り、カレンも再度軽く頭を下げて店を後にした。
「やれやれ」
「レミナと何かあったのか? 前もなんか言い合ってた気がする」
「ん? ああ、いや。特別何かあったってわけじゃねえ。ただレミナがここに来る度に俺をからかうから、俺もあいつに遠慮しなくなったってだけだ」
「ふーん」
そう言われてヒトヤはドヴェルグをなんとなくまじまじとみる。
腹まで伸した髭。背は低く、ずんぐりとした体型に、皺の多い顔。どことなく愛嬌を感じる風貌。
(なんか言いやすそうな人ではあるよな)
ヒトヤはレミナがからかいたくなる気持ちに一定の理解を示した。
「それで、装備を買うんだろ?」
「ああ。といっても何を買っていいのか解らないんだ。そっちで薦めてくれないか? 予算は五十万ゼラで」
「随分稼いだな。そういえばお前さん、ランクは10になったんだよな?」
「そうだけど、なんで知ってるんだ?」
「遺跡探索の話はこっちにも伝わってる。人車型の討伐記録のあるランク10以下はランク10に引き上げられたって話もな」
「へー」
ヒトヤは急に上昇したランクを見て、遺跡探索が大変だったから皆一様にランクを上げられたと思っていたから、ドヴェルグからの情報は新しかった。
「お前さんの遺跡での活躍はさっきレミナからな。大したもんじゃないか」
「そうか? 自分ではよく解らないな」
活躍といえる程大袈裟なものだとは思わない。フーシェやコウキと比べれば自分はまだまだ弱い。だが、ウジキの様な者と比べればマシであることも解る。
騎士への復讐を目的とするヒトヤは、それ故正しい自分の評価を欲している。
ヒトヤの言葉はそういう心情から漏れた本音だった。
「ぐははは、そう謙遜するなって。さて、じゃあちょっと見繕ってやろうか……そうだな」
ドヴェルグは唸りながら店を歩き回り、幾つかの品をカウンターに置く。更に店の奥にいって追加の品を並べた。
「予算があるところすまないがランク10で買えて、お前さんのサイズに合いそうなのはこの辺りだけだな」
ドヴェルグはカウンターに並べた品の説明を始めた。
軽さを重視してつくられた強化プラスチック製の鎧にも見える防護ベストとショルダープロテクター。同じ素材の膝と肘と臑のプロテクターは、先日買った物よりも高額な代わりに防御性能が高い。
今の防護服よりも防刃製の高い合成繊維の防護服。
「これなら森林地帯の攻撃にもそれなりに耐えられる。ほれ、試着してみろ」
「ああ」
ドヴェルグに従いヒトヤは早速装備を試着する。プロテクターにはサイズ調整構造があり、ギリギリのものはあったものの、ヒトヤは全て身に着けることが出来た。
「うん、いい感じだ」
「そりゃよかった。なら会計でいいか?」
「ああ」
「合計二十万ゼラ。端数はまけてやるよ」
「いいのか? ありがとう」
金をドヴェルグに払い、店を出ようとしたヒトヤはふと気になって足を止めた。
「どうした?」
「この店って誰かに狙われてるのか?」
「は? いや、心当たりはねえが……どこでそんな話を聞いた?」
自分の店が狙われているという噂をヒトヤが耳にしたのかと、ドヴェルグは少し慌てた様子を見せる。
「いや、さっきレミナがそんなこと言ってたような」
「ん? ……ああ、あれか……」
ほっとしたことによる勢いと、他に客もおらず時間があり、また廃棄地区の住民では確かに都市のニュースなど知らなかろうという思いから、ドヴェルグはヒトヤにレミナとの会話を説明することにした。
「少し前から都市内で義賊を名乗るやつが出没しててな」
「ギゾク?」
「そっからか……義賊ってのはあれだ。簡単に言えば泥棒だ。ただし金は金持ちとか悪いことやってる奴らからだけ盗むんだ」
「まあ、盗むなら持ってる奴から盗むよな……何が泥棒と違うんだ?」
「泥棒は金を得ることが目的で、義賊は相手に損害を出すことが目的ってところだな」
そしてその義賊を名乗る者達が現われ、都市内の店や家を襲っているとドヴェルグは続けた。
当初は平民街で少し羽振りのよくなった者達の家を襲っていた義賊の活動はエスカレートし、今では店や貴族街の屋敷もターゲットにされている。
ここ最近のニュースでは平民街の奴隷業者が義賊に襲われ、店主は殺害された。そして全ての奴隷を解放されたという。
「へー……ていうか奴隷業者なんているのか?」
「ああ。まあ店がそう名乗ってるわけじゃねえがな。奴隷ってのも言葉の綾で、要は多額の借金背負って、そいつを盾に無茶な事させられる奴らのことだ。風俗店の女達もそんなのが多いって話だ」
「フーゾクテン?」
「あー、お前さんにはちと早い話だな。ともかく奴らも借金したくてしたわけじゃねえ。それでも借りなきゃいけなかった奴もいれば、無理矢理借りさせられた連中もいる。そうやって奴隷を生みだし、過酷な労働をさせたり、身体を売らせたりする。そういうあくどい連中がいるんだよ」
そして義賊はそういう者達を狙う。
レミナはドヴェルグの接客態度の悪さを、それをネタにして義賊に狙われると例えただけで、本当に狙われるようなことはないとドヴェルグは続けた。
「自分で言うのもなんだが、ウチは真っ当な商売を心がけてるからな。義賊が狙うようなことはねえよ。義賊が本当に正義感であくどい店を狙っているならな……あと義賊の正体がレミナだったら分からねえな」
「はは。確かに」
冗談交じりにそう締めくくったドヴェルグにヒトヤも笑顔をみせた。
ヒトヤが義賊を気にしたのは、よく知らない都市内で知っている店がなくなるのは辛いという感情からだ。
その心配がないのなら義賊が誰を狙おうがどうでも良かった。
だからドヴェルグの説明に安心し、ヒトヤは今度こそ店を出た。
「ただいま」
「お帰り。不機嫌な顔をしているな。どうかしたか?」
イクサの家に帰ったヒトヤの顔を見てイクサは苦笑を浮かべる。
「都市に行くと騎士に会うんだ。しょうがないだろう」
「そうか。まあ、笑えと言う気はない。都市内と廃棄地区で揉めてくれなきゃ問題はないさ。さて、それで……それが新しく買った装備か」
「ん? ああ」
「まだランクが低いから贅沢は言えないが……まあ、一応森林地帯に入る位は出来るか。今度依頼がなかったときは森林地帯に行ってみろ」
「依頼がないのにか?」
首を傾げるヒトヤにイクサは少し呆れた表情を見せる。
「人形狩りの本分はロイドバーミンの討伐と遺体の獲得だ。初めの内は装備も心許ないから、比較的安全な依頼や心強い同行者のいる依頼を熟して金を稼いでたんだよ。もうランク10なら人に甘える期間は終わりだ」
「そうか。そういうことならそうするぞ。正直今日も依頼がなくてどうしようかと思ってたんだ」
森林地帯に行けるということは、騎士達を殺すことが出来る機会が増えると言うことだ。そう考え気を良くしたヒトヤにイクサが忠告する。
「あ、森林地帯に行く前に端末を買っておけよ。確かロイドバーミンの遺体を持ち帰れなくても討伐するだけで報酬は一部貰えるはずだが、討伐した敵の種類と数は自己申告じゃない。嘘がいくらでもつけるからな。端末に記録した数だけのはずだ」
「わざわざ倒した後に記録するのか?」
「いや、端末が自動でやってくれるはずだ」
「それだと騎士を殺したときにバレないか?」
「問題ない。マッピングアプリを切っておけば端末が自動で記録するのはロイドバーミンだけだ。ロイドバーミンが停止すると発信される信号を数えているだけだからな。だから記録にはロイドバーミンの討伐数しか記録されない」
「ごめん。何言ってるかよく解らない」
「問題ない、ってことさ」
「そうか。じゃあ明日は端末を買いに都市に……いくよ」
「おお。便利だぞ? 財布代わりにもなるしな」
都市に行けば騎士に会う。それを思いだし、再度表情が不機嫌になるヒトヤにイクサはまたも苦笑の表情を送った。
<あとがき>
書きだめが少ないので毎日更新とはいきませんが、なるべく早く早いペースで更新を続けていきます。
今後とも末永く宜しくお願いします。
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