第20話 合流

 休憩を終えたヒトヤ達は来た道を引き返す。

 通路の途中でコウキが倒したロイドバーミン十体は動きを止め、障害物として通路を塞いでいた。


 通路とロイドバーミンの隙間を抜け、或いはロイドバーミンをよじ登る。

 ヒトヤはふとコウキが斬ったロイドバーミンの傷から見える中身を見た。


「ロイドバーミンの中って結構隙間だらけなんだな」

「そうね。見るのはいいけど、持って還ろうとしちゃダメよ? 契約に違反するからね」

「分かってる。騎士団が回収するんだよな?」

「ええ、そうよ。気に入らない?」

「……いや」


 最後尾を行くヒトヤに一応の忠告をしながらレミナが進む。どうしたってこの巨体を持ち帰るのは無理だ。

 ロイドバーミンを乗り越えた先でミヤビを先頭に待つ隊列に加わるのに、ヒトヤが遅れたことをレミナは少し気にしたが、口では否定してもロイドバーミンの遺体に未練を感じるのは仕方ないとも考えた。

 レミナは歩き始めた後も何度かロイドバーミンの遺体を振り返る少年の様子に、人形狩りに成り立ての自分の姿を重ね、微笑ましく思いながら歩を進めた。




 歩き続け、階段まで引き返したところで、ヒトヤは近づく足音に気付いた。


「止まって。誰か来るわ」


 同様に気付いたレミナが皆に警戒を呼びかける。


 後続チームが次々と来ているはずだから誰かが来るのは不自然ではない。むしろ仮眠をとった長い休憩を挟んだ後だ。誰とも合流していない方が不自然なほどだ。

 だから何者かの足音が聞こえたこと自体に問題はないのだが。ヒトヤが薬草狩りの時に出会った者達の様に、人形狩りは品行方正な者達ばかりではない。中には出会った人形狩りに対し強盗まがいの行為を行う者達もいる。

 その為レミナは警戒を呼びかけ、階段で上方を取られぬよう通路へと引き返した。


 相手が姿を見せるのを待つこと暫し、現われたチームを見てレミナは警戒を解いた。


「久しぶりね、フーシェ、シャオン」

「おお、レミナじゃん。ひっさー。ミヤビとカレンも」

「久しぶり。元気そうでなによりだ」

「ええ」


 合流したチームはレミナの顔見知りらしい。

 

 レミナの様子を見て問題なさそうだと判断したヒトヤは、合流したチームの様子を観察して首を傾げた。

 フーシェ達のチームには四人チームだった。

 こんな場所だ。死んだ者がいても不思議はないから人数が四人しかいないこと自体に疑問はない。気になったのはフーシェとシャオンの武装だった。

 シャオンと呼ばれた女性は武器を持っていたが、どう見てもただの棒にしか見えない。金属の光沢を持つその棒は先端が鋭く尖っているが、斬ることも出来ないその武器は戦闘には非効率に見えた。

 そしてフーシェと呼ばれた男は武器を持っていなかった。

 戦いの中で武器を失ったのだろうか? とも考えたが、フーシェはチームの先頭を歩いていた。


「いやぁしかし、相変わらずの美人だな。ここで会えたのもきっと運命だ。今度俺とンゴッ!?」


 ヒトヤが考えていると、レミナと話していたフーシェの頭に突如シャオンが棒を振り下ろした。


「っ痛えな! シャオン姉」

「こんなところでナンパ始めるんじゃないよ、アホウ」


 通路に響き渡った音。頭の骨が割れてもおかしくなさそうなその一撃にヒトヤ達少年少女が唖然とする。


「いつもの事だから気にしないで」


 苦笑しながらミヤビがヒトヤ達に声を伏せて言って聞かせた。

 事実レミナやカレンは彼等の様子を苦笑で受け流している。それを見てヒトヤはひとまず自分が得た情報で、今の状況について自分を納得させた。


(フーシェはアホウだから武器は持ってなくて、シャオンはいつもフーシェを殴るからシャオンの武器には刃がない? ……んなわけないよな。いや、そういうことでいいか)


 ヒトヤの心情に構わずレミナとシャオンは端末を取り出し、マップ情報を合わせながら、情報交換を兼ねた会話を続けている。


「あなた達何番目のチーム?」

「46さ」

「随分数字が離れたわね……間のチームは偶然このルートを選ばなかったって事かしら? 暫く休憩してから来たのだけど、あなた達以外と合流していないのよ。ここまで分かれ道は一箇所しかなかったし、誰かと合流してもよさそうなものなんだけど、何か知らない?」

「多分だが北の方にいった奴らの生き残りが契約を破って入り口まで戻り、助けを求めたらしいからそのせいじゃないかい? それで北の方角の探索優先順位を上げた騎士が人形狩りを二十チームほど北方面に集中して送ったのさ」

「そういうこと……その生き残りは?」

「無理矢理帰ろうとして騎士と揉めてね。見せしめに殺されたよ」

「はぁ……やっぱりそうなるのね」


 ヒトヤも会話を聞きながら、情報を頭に入れていく。


 シャオン達が見たこの遺跡の脅威は小人型と人間型と人車型。

 人間型は数が少なく、小人型と人車型が殆どだった。

 シャオン達は分かれ道で南に向かい、行き止まりになっているのを確認して引き返し、今度は東、つまりこの道を進んでヒトヤ達を合流したらしい。


「おそらく西側には大量の人車型がいるね」

「でしょうね」


 それがレミナが分かれ道で西を選ばなかった理由だった。

 そう思って進んだこのルートで結局多数の人車型と出会ったのだから避けた意味はないのかもしれないが。


 先の戦いではコウキの力で状況を打開できたが、次はそうはいかない。


「後続部隊が倒してくれた、なんて都合の良い状況になってくれてればいいけど」

「余り期待はできないね。ファランクスとかクレイモアとかの高ランクチームが今回の探索メンバーに入っていたけど、南ルートの番号じゃなかったはずさ。少なくとも南ルートはアタシ達でマッピングしないとダメそうだね」

「そう……ありがとう。参考になったわ」

「いや、構わないよ」

「南ルートのマップ情報は東も南も埋まった……となると西に行く訳だけど、このまま合流して行くってことでいい?」


 そして南ルートに残るマップの空白地帯はその避けたルートにのみ。であればこれからそこへ向かわなければならない。

 レミナは少しでも戦力を増強する為にも、シャオン達との共闘を持ちかけた。


「ああ。アタシ達もそっちの方が助かる。この地形で人車型は厄介だ。人数も減ったからね。そっちの戦力に期待させて欲しいところさ」

「あなたとフーシェはいいとして、他の二人はどうなの?」

「いや……戦力に計算しないで欲しいところだね」

「そう……さて。それじゃ、一緒に行きましょうか?」

「リーダーは任せてもいいかい?」

「いいけど……ランクはあなた達の方が上でしょう」

「そうなるとリーダーはフーシェになるんだけど。いいのかい? 先手必勝以外の作戦を知らない奴だけど」

「……シャオン、他人のチームに口出すものどうかと思うけど、あなたがリーダーの方がよくない?」

「アタシは好き好んで苦情の窓口になる趣味はないよ」


 レミナはシャオンの言葉に肩を竦めつつも、シャオンの提案を受け入れた。






 合流後の隊列はミヤビを先頭にその後ろをフーシェとシャオンで固めた。

 その後ろにウジキとフーシェのチームの二人、そしてレミナとカレンが続く。

 ウジキを最前列に置き、また何かあればコウキが無理をするかもしれない。

 高い回復薬で手にれた盾ではあったが、レミナは素早く損切りをして引っ込めた。

 コウキの戦力を知ったが故に、レミナはコウキを最後の切り札として扱った。

 そのコウキは安全であろう殿。それも最後尾はヒトヤに任せ、その前にマナミとコウキを立たせる形で、コウキが少しでも回復に集中出来る隊列をとった。


「来るわよ!」


 分かれ道の手前、人車型のロイドバーミンが一体行く手を阻む。

 武器は持っていない。

 ならばとカレンが弓を構える前にフーシェの声が響き渡った。


「っしゃあっ!」


 フーシェがミヤビを追い越し、人車型へと駆け出す。


「あのバカ!」


 フーシェが動き出したのを見て、シャオンも後を追った。

 人車型は現われた人間の姿を補足し、前進を開始していた。

 そのまま轢き殺す気なのか、腕を広げ突撃するロイドバーミン。そんな者に武器も持たずに突っ込むフーシェ。


(どうするつもりだ? アイツ)


 ヒトヤは隊列の隙間からその姿を視界に捉え、その後に起こる惨事を想像するより、ただ疑問を覚えた。

 自分から突っ込んだ以上勝機があるのだろう。だがフーシェは武器もなく、またコウキのように放電しているわけでもない。

 

 コウキやマナミが驚愕の声を上げる中、その光景をただ観察するようにヒトヤは見ていた。


 フーシェは人車型とあと数歩で接触するというタイミングで跳躍した。

 壁の方へ。そして壁を駆け上がり、更に跳躍の高度を上げる。


「おぉおお!」


 ロイドバーミンを飛び越え、かけ声と共に落下した重量を乗せた肘をロイドバーミンの頭に叩き付けた。

 衝撃が如何ほどのものだったのか、ロイドバーミンの走行の軌跡が蛇行する。

 壁に車輪を擦り、減速したロイドバーミン。

 後を追ったシャロンはその隙を逃さず、ロイドバーミンの頭に長く鋭利な棒を突立てた。


 シャロンの武器はロイドバーミンの頭を貫通した。ロイドバーミンは暫く痙攣するように動いた後、その動きを止めた。


「どうだ? レミナ。俺の動き。惚れ直したンガッ!?」

「すまない。ウチのバカが」

「いえ、結果オーライよ」


 突き刺した武器を戻した武器をヘラヘラと戻って来たフーシェの頭に叩き付けたシャオンがレミナに向かって謝罪する。隊列を崩したフーシェの行動を謝ったものだ。レミナは肩をすくめつつも謝罪を受け入れた。


「……すごいな」


 思わずヒトヤから言葉が漏れた。


「お、分かるか? ボウズ。これが波動転勁イギッ!? 何すんだ、シャオン姉!」

「今は調子に乗るところじゃない。謝るところだろ」


 シャオンに頭を殴られるフーシェを見ながらヒトヤはフーシェの戦いを思い返す。


 コウキの戦いは常人には真似できない。だからヒトヤはコウキを化物と評した。

 しかしフーシェの動きは人間の能力だ。コウキと同様とは言わずとも、フーシェはやはり壁を走り、ロイドバーミンの後ろに周り込んで致命の隙をつくりだした。

 フーシェの一撃で陥没したロイドバーミンの頭を見る。

 シャオンがいなくてもフーシェは独りでロイドバーミンを倒したに違いない。


 フーシェの動きは訓練の賜だ。

 言い換えれば厳しい訓練を受けた強い騎士達も同様の身体能力を持つかもしれない。

 

 高ランクの人形狩りの動きを見て、ヒトヤはまだまだ強くならねばと決意した。

 その思いに応える様にヒトヤの胸が脈打った。

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