第26話

 次の日の昼過ぎ。

 調理場で、ナザリーさんが顎に手を当て、ボーッとしている。


「考え事です?」

「うん。新しいメニューを考えたいと思ってね」


「どんな感じの?」

「そうね。オリジナルのサンドイッチとか、ハンバーガーとかかしら」


 オリジナルね……そういえば、カトレアさん料理人だったって言っていたわね。

 何かアドバイスを貰えないかしら?


「ナザリーさん。今日は休みなので、出かけてきて良いですか?」

「どうぞ」

「夕方には戻ります」

「分かったわ」


 店を出て、カトレアさんの家へと向かう。

 今日、居るかしら?

 久しぶりだから、ワクワクしちゃう。

 

 カトレアさんの家に着く。

 わが子達、大きくなったかな?


 畑の様子を見ると、だいぶ芽が出てきていた。

 うん、順調みたいね。

 

 玄関の前に立ちノックをする。

 しばらくしたら、カトレアさんが出てきた。


「あら、ミントちゃん」

「こんにちは」


「久しぶりね。どうぞ入って」

「ありがとう」

 

 中に入って居間に行く。

 椅子に座ると、カトレアさんが「いま紅茶を持ってくるわね」

 と、言った。


「ありがとう」

 

 カトレアさんが台所から戻ってきて、紅茶を出してくれる。


「今日はどうしたの?」

 と、言って、座った。


「いま、パン屋さんで働いているんだけど」

「もしかしてだけど……」

「なに?」


「パン屋ってことは、バレちゃったの?」

「お察しが宜しいことで……でも大丈夫。店長は優しいお姉さんよ」


「そう、良かった」

「そのパン屋で、サンドイッチみたいに食べ歩けるもので、新しいメニューを開発したいんだけど、何かアドバイスを貰えないかなって思って」


「そうね……ワイルドボアの燻製肉を使ったオリジナルソースのサンドイッチなんて、どうかしら?」


「それならアラン君も喜ぶでしょ?」

「え?」


 考えもしていなかった。言われてみれば、それを広げることができれば、アラン君も食べれて、きっと喜ぶ!


「カトレアさん、凄い! それいいよ」

「私も少し考えていたのよ」


「ありがとう!」

「レシピ教えるわね」

 と、カトレアさんは言って、立ち上がり、引出しからメモを出した。

 

 テーブルに戻り、メモにレシピを書くと、「はい」

 と、渡してくれた。


「ありがとう」


 カトレアさんは椅子に座ると「書いてあるのは普通に手に入る食材だから」


「分かった」

「ミントちゃんが、元気そうで良かった。フワフワしているから心配だったのよ」


「なんだか前にも言われた気がする」

「ふふ。薬草の方、順調よ。来月には収穫できるわ。そうなれば、あとは冬まで、たくさん採れるようになるわ」


「ありがとう。たまに手伝いに来るね」


「来てくれるのは嬉しいけど、無理しなくて良いからね」

「うん。ごめんなさい、カトレアさん。ゆっくりしていたいけど、夕方には帰るって言ってきたから、そろそろ帰るね」

 と、私は言って、立ち上がった。


「そう」

 カトレアさんも立ち上がる。


 玄関に行くと、「じゃあ、また来るね」

「いつでも、いらっしゃい」

 

 帰り道の森。

 ガサゴソ……。

 茂みから音が聞こえる。


 魔物!?

 慌てて、バックからナイフを取り出す。


 出てきたのはゴブリンかと思いきや、前にアラン君が退治したのと同じ魔物だ。


 私は後退しながら、様子を見る。

 向こうも直ぐに仕掛けてくる様子もなく、触手をウネウネと動かしている。


 どうすればいいの?

 魔物が一本の触手を伸ばし、攻撃を仕掛けてくる。

 私は右に避け、何とか、かわした。


 触手は複数ある。

 まとめて来られたら、避けきれない!

 そう思っていると、2、3本の触手が伸びてくる。


 もう駄目!

「退け」

 と、低く渋い声が聞こえてくる。


 私はすぐさま、後ろに避けた。

 触手が切り刻まれ、落ちていく。


 目の前には、黒のロングコートを着た白髪が混じった男性が立っていた。


 右手には細長い剣が握られている。

 

 男性がゆっくり、魔物に近づいていく。

 魔物は残りの触手を使い、男性に攻撃をするが、


 難なく、次々に切り刻まれ、落ちていく。

 男性が魔物の側に着いたころには、一本も触手が無くなっていた。


 男性が魔物の上部に一太刀浴びせると、魔物はシュン……と動かなくなった。


 男性は剣を鞘にしまうと。レザーの手袋をはめ、魔物から毒袋を取り出した。


 皮の袋を開けると、すぐに毒袋をしまう。

 私は恐る恐る男性に近づくと「ありがとうございました」


 男性は振り向くと、「プラントAを素人が相手をするんじゃない。万が一、毒袋を破いてしまったら、毒を食らって死ぬぞ」


 眼光鋭く、とても怖い。泣きそう……。


「ご、ごめんなさい。怖くて、逃げられなくて」

「まぁいい。次は相手にしないことだ」


「はい」

「ところで、クレマチスの町に行きたいのだが、知っているか?」

「あ、はい。ちょうど帰るところなんです」


「案内してくれないか?」

「分かりました。こちらです」


 私が先頭で歩きだす。

 この人、ロングコートの中は白いシャツに赤のベストで、下は黒のスラックス。


 武器は持っているものの、防具も盾も持っていない。

 旅人か何かかしら?


「あの、私。ミントっていいます」

「私はクラークだ」

「クラークさんは、旅人か何かで?」


「そうだ」

「なぜクレマチスの町へ?」


「数日前、私が魔物の毒を食らい、倒れていた時、少年が毒消し薬を飲ませてくれてな。クレマチスの町で、手に入ると聞いて来てみた」


 え? それって……。


「もしかして、15歳ぐらいの黒のバンダナを巻いた茶髪の男のでした?」

「あぁ」


 アラン君だ!


「私、その手に入る場所も知っているので、ご案内します」

「そうか、助かる」


 町に着くと、薬剤研究所まで案内した。


「こちらです」


「助かった。私はしばらくこの町を拠点に動いていくつもりだ。何かあったら声をかけてくれ」


「はい、分かりました。今日はありがとうございました」

 と、言って頭を下げると、商店街へと歩きだした。


 カトレアさんのレシピを元に、材料を買ってから、お店へと帰る。

 店に戻ると、調理場へと向かい、「ただいまー」


 調理場の椅子に座っていたナザリーさんが「お帰りなさい」


「ナザリーさん。私がお世話になったお婆ちゃんから、料理のレシピもらってきた」


「え?」

「そのお婆ちゃん、元料理人なの」


 ナザリーさんは立ち上がり「へぇー、見せて」

 ナザリーさんにメモを渡す。


「そんなに難しくなさそうね。今から作って、夕飯に食べてみましょうか?」

「うん! そう思って、材料を買ってきた」


「準備良いわね」

 私は手を洗うと、ナザリーさんの横に立った。

「私は何をすれば良いですか?」


「そうね……野菜とか切ってもらえる?」

「はい」


 私とナザリーさんはレシピに書かれている通り、料理を始めた。

 

 最後の仕上げに取りかかる。

 まず、スライスした食パンに、バターを塗る。


 次に辛子マヨネーズを薄く塗って、その上にレタスを千切って乗せる。

 次は薄くスライスしたトマトを乗せて、燻製した厚切りワイルドボアの肉を乗せる。


 その上に、細かく刻んだオニオンをベースにしたオリジナルソースを、多めに乗せる。


 最後にまたレタスを乗せて、食パンを乗せるっと……。


「完成! ボリューム満点、燻製ワイルドボアのサンドイッチの出来上がり~」


「美味しそうね」

「うん! 絶対、美味しいよ」

「さぁ、食べましょ」

「うん」

 

 サンドイッチを持って、自分が食べる場所へと持って行く。

 椅子に座ると「頂きます」


 ナザリーさんがカップに牛乳を入れ、持ってきてくれた。


「どうぞ」

「ありがとうございます。ごめんなさい、早く食べてみたくて」

「大丈夫よ」

 

 サンドイッチを手に取り、パクッと食べる。


「ボリュームがあるのに、あっさりしていて美味しい~」

「ほんとね。これならゆで卵をスライスして乗せたり、アレンジ出来そうだわ」


「うんうん」

「明日の朝、食パン1斤 30個を複製できる?」

「お任せあれ」


「あと、朝からレジをお願いできるかしら? いくつか作ってみるわ」

「はーい」

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